2022年11月8日(火)に行われた日本の人事部主催、HRカンファレンス2022-秋-。
出版社「株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン」で35年間社長を務め、取次を通さない直取引で日本随一のビジネス系出版社に育て上げたのち、現在は「株式会社BOW&PARTNERS」で次世代リーダーのためのビジネス書発刊・次世代ビジネス著者発掘に取り組んでいる干場弓子氏をお招きし、当事者が語る次世代女性リーダー育成論をお伺いしました。
登壇者
Yumiko Hoshiba
株式会社BOW&PARTNERS 代表取締役社長/ディスカヴァー・トゥエンティワン共同創業者・前取締役社長 /IPA=International Publishers Association日本代表理事/干場弓子事務所代表
経歴
1985年、ディスカヴァー・トゥエンティワン設立に参画。
以後35年間、社長として同社を日本随一のビジネス系出版社に育て、勝間和代氏ほか多くのビジネス系著者を発掘。
2021年、BOW&PARTNERSを設立。次世代リーダーのためのBOW BOOKSシリーズを刊行。
次世代ビジネス著者の発掘育成に邁進中。
目次
まずは、女性活躍の現在の状況についてご紹介します。
政府は、2030年までに民間企業の女性管理職比率を30%へ引き上げるとしていましたが、まだ目標には届きそうにありません。しかし、一般職の女性しかいなかった時代を思えば、増えてはきています。人数的にはまだ足りてはいないが、伸びてはきている、というのが現状です。
女性管理職比率を国際的に比較してみると、日本は韓国と並んで低水準と言わざるを得ません。しかし、ここで注目したいのは、米国の「役員に占める女性の割合」です。
ともすれば私たちがお手本としてきた米国は、働く女性の数は多いものの、役員の割合となると、実はヨーロッパと比較して非常に少ないのです。必ずしも日本のお手本となるとは限らないのが興味深い事実といえるでしょう。
日本は「仕事を持っている女性の数」は非常に多い国です。注意すべきは「非正規・一般職が多い」ところですが、ともあれ働く女性自体は増えています。それにともなって、政府が掲げる制度というのもこの20年で充実してきており、実は世界でも屈指の手厚い内容になってます。
例えば、産休です。米国だと「1年なんてとんでもない!」という状況。1ヵ月、3ヶ月休んだだけで、制度の問題ではなく、「ライバルとの競争」によって仕事を取られてしまいます。それに比べると、日本は比較的手厚いでしょう。
男性の育児休暇にしても、コロナをきっかけに取得率が急上昇しました。2020年で12.7%ですから、現在はさらに上がっているのではないでしょうか。
女性活用が進み、制度的にも充実してきているなかで、それでも目標を達成できていないのはなぜでしょうか?今度は、社内的な要因から探ってみたいと思います。
ある調査で「女性の管理職が増えない理由」を男性・女性の双方に問うと、答えとして、
と続きました。つまり、男女ともに同じ要因を挙げていたのです。
「人材が少ない」ことについては、(50歳前後で管理職になると仮定して、)現在の50歳前後の新入社員時代をさかのぼってみると、やっと男女雇用機会均等法ができた頃です。四年制大学の男女比率も低く、私の時代だと、男性は何とか40%になっていましたが、女性は12.5%でした。短大の20~25%と合わせて、ようやく男性と同じくらいです。
上記を踏まえると、今の20代とは異なり、人材が少ないというよりも、「管理職に適する分母が少ない」と考えられます。
今は結婚を理由に「寿退社」する人は少ないかもしれませんが、出産や育児、介護を理由に退職する人は多いと思います。
ところが、それは表向きの理由かもしれません。米国と比較したデータをみると、表向きは「出産」「育児」といっていても、日本の「本当の理由」のところでは、「仕事への不満」「行き詰まり感」が挙げられています。ベースに不安や行き詰まり感があったところ、出産などが引き金になってしまっている現実があるようです。
ここまで見てきた通り、女性のキャリアアップには、「女性の側」の仕事への不満や行き詰まり感、そもそも管理職になりたいと思っていない、ということも関係しているようです。
ここからは、「女性の側」の問題に絞って話を進めます。
さまざまな資料から、「日本の女性の意識は、これまでお手本としていた米国の女性と共通する部分が多い」ことがわかります。
2007年、私が企画・プロデュースしてディスカヴァー・トゥエンティワンから出版した翻訳書に、『ミリオネーゼになりませんか?』という本があります。「ミリオネーゼ」とは、「仕事も恋も結婚もおしゃれに楽しんで1000万円稼ぐ女性」という意味です。もととなったのは2003年の米国の本で、女性が自分で自分を縛っている要因が書かれていました。
驚くことに、日本女性と比べると自己主張の強い、自己肯定感の塊のように見える米国女性も、実は、米国男性と比べれば自己主張が弱い、自己肯定感が低い、という内容です。さらに、やりがい搾取されているということも書かれていました。
2003年といえば、今から19年前。昔の話かと思うところですが、2019年に「コーチングの神様」といわれる人が書いた「女性のキャリアアップを妨げている要因」を取り上げた本のなかでも、やはり同じようなことが書かれています。米国の事情もあまり変わっていないということでしょう。
上記で共通することを、「6つの悪癖」としてまとめてみました。
「自分の実績をきちんとアピールすべきなのに、しない」。これは、実際に留学の手続きで経歴書作成を手伝っている女性から聞いた話です。自分の経歴をアピールするところに、男性は盛って書く傾向にありますが、女性は控えめに書く人が多いそうです。
それを支える誤った信条に、「能ある鷹は爪を隠す」。本当に力があれば、誰かが自然に気がついてくれる、という想いがあるのかもしれません。
悪癖1と関連するものに、「あえて自分を小さく見せる」があります。いわゆる、過剰な謙遜です。男性にもなくはありませんが、特に日本の女性に、謙遜する人が多いように感じます。
それを支える誤った信条は、「出る杭は打たれる」です。謙遜した方がチームの中でうまくいくということを、長い学校生活のなかで学んできた女性が多いのでしょう。
そしてそれ以上に、「私にできることなんて大したことない。私にできるんだからみんなできるんじゃないか」と自己卑下してしまっているケースも少なくありません。
「この仕事だったら、本当は年収600万円ぐらいが妥当だが、やりがいがあるから安くても我慢する」というものです。「やりがい搾取」という言葉があるように、やりがいを優先する点を経営者に利用され、年収を上げてもらえないケースもみられます。
この傾向は女性に強いようで、米国でも同様のようです。これは、「仕事の価値と金銭的リターンは比例しない」という誤った信条によります。
完璧主義は男性にも存在しますが、女性のほうが多いように感じます。支えているのは、「完璧に仕上げないとできたとはいえない」「確実にできることしかできるといってはいけない」、さらに最近問題となっているのが、「できる女性は仕事だけでなく、家事も育児も美容も全て完璧でなければならない」といった誤解です。
完璧主義の人は、「それができないならやらない」となりやすいようです。
これは、女性の良いところでもあります。協調と人間関係を重視するところが、実は中間管理職には向いているのですが、重視しすぎると、「誰からも嫌われてはいけない」といった誤った信条につながってしまいます。
「同僚のなかから自分だけ浮いてしまうなら、別に管理職にならなくてよい」という「おそれ」を抱いてはいませんか?
「女性であることを利用するのはずるい」、反対に「女性であることを生かして、男性を立てて利用するほうがかしこい」といった誤った信条はないでしょうか?あるいは、「有能なだけでは価値がない、女性としても魅力的でなければならない」といったように想いが混在していているケースもみられます。
「管理職になりたいと思う女性が少ない」ということは、「成功しようと思っている女性が少ない」ということだ、と思われがちです。しかし、見方を変えると、女性の多くが「成功」イコール「幸福」だと考えていないともとらえられます。
人生の目的はさまざまですが、突き詰めれば、「幸せな人生を送りたい」ということでしょう。そして、多くの男性は「幸福になるため」に出世を望むわけです。
しかし、女性が「成功イコール幸福」だと思っていないとすれば……「別に成功する必要はない」となるのです。
先ほどのコーチングの神様の本によると、女性は「お金や肩書きを唯一の、あるいは主要な成功のしるしとみる代わりに、職場での過ごし方や自分の貢献が及ぼす影響のほうに大きな価値を置く傾向が強い」そうです。そうであるとするならば、管理職は目指さないでしょう。
「仕事における成功」イコール「人生における成功」だとみなさない、という考え方は以前からありましたが、とはいえ、「昭和おじさん」の間ではそれがメジャーな考え方でした。しかし、今、昭和おじさんの考え方はメジャーではなくなってきています。
「昇進を望まない理由」を男女に尋ねてみると、ミレニアル世代に近づくほど、男女差がなくなっています。性別を問わず、「ワークライフバランスが崩れるのが嫌」「管理職よりも現場のほうが好き」といった理由を挙げているのです。
ミレニアルのモティベーションは、世界とは大きく異なっています。世界的には1位になっている「仕事の内容」は、日本のミレニアル世代では4位です。「自分らしく働ける職場風土」を挙げている人が男女ともに多いことから考えると、今、女性の管理職リーダーの育成を考えることは、実は女性に限らず若い社員の育成にもつながるのかもしれません。
出世しなくても別にいい、という気持ちはよくわかります。それでも私が、女性は管理職・役員を目指すべきだと考える理由は、3つあります。
これは、経験的にお伝えしたいところです。やはり、上に行けば下からは決して見えない風景が見えます。ぜひ、見てみるべきです。
上に行くということは、権限・責任の領域が増すということです。せっかく仕事をするのなら、こうすることがお客様に、社会にいいだろう、という細かなことの決定権限が増えるほど、やはり楽しく感じます。
今では、ひとつの会社に居続ける必要性は少なくなってきています。昔に比べるとキャリアアップ転職も増えてきているなかでは、やはり一般社員のままより少し上にいたほうが、次のキャリアの選択肢も広がります。
突然大きな話をするようですが、あながちそうともいえません。
ほんの5年ほど前までは、女性活躍推進については「ブランディングの一種でしょ?」といった意見もありました。ところが、ここ数年で一気に、実際の資料が国内外からあがってきたのです。女性活躍推進が進む企業では、実際に株価も利益も上がっています。ゴールドマンサックスの提言でも、女性活用により日本はまだGDPが15%アップする余地があるとされています。
つまり、マクロでみると女性の出世が、現在混迷している日本を救い、子どもたちの生きる未来をも救うのです。
「では、管理職を目指してみよう!」と思ったあなたに、今日からできることを7つご紹介します。
最後に、「管理職のお願い」として、2つのポイントをご紹介いただきました。
女性社員には、「ちょっとしたひと押し」が必要。個々人のどこが優れているのか、なぜ選ばれているかを声掛けし、言葉で励ますことが支えになります。
性別に関係なく個人を遇する風土をもつ企業は、結果的に女性比率も高く、経営パフォーマンスも高い傾向があります。長期的には、そうした取組みを行わない企業は市場から淘汰されていく可能性があります。
男女関係なく活躍してもらうことを前提に、女性も男性も働きやすくなるような職場環境を心掛けていきましょう。
今回は、女性活躍の現状から見えてきた「女性の側」が抱える6つの悪癖をご紹介しました。それぞれの背景にある誤った信条を解き、働く楽しさや今後のキャリアの選択肢を増やすために、ひいては日本の子どもたちのよりよい未来のために、女性はぜひリーダーを目指し、取り巻く周囲、特に上司は、積極的に後押しをしていきましょう。
講演の後は、視聴者から寄せられた質問に答えながら、干場氏と弊社代表 清水とのディスカッションも行いました。これまで経営者の立場で多くの部下を育成してきた干場氏の示唆に富む回答は、次世代リーダー育成に課題を持つ視聴者の皆様にとっても、今後の施策を考える上でのヒントになったのではないでしょうか。
左:干場弓子氏、右:WisH株式会社清水
女性管理職や次世代リーダーの育成に関して、具体的な進め方や施策内容についてお困りの場合は、ぜひ弊社までご相談ください。
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