先日(2022年11月21日)に開催した目ウロコセミナーでは、弊社、WisH株式会社代表取締役の清水美ゆきが登壇し、次世代女性リーダー育成において押さえるべき5つのポイントをテーマに講演をいたしました。今回はそのセミナーレポートをお届けします。
WisHプロフェッショナルパートナー講師
Miyuki Shimizu
WisH株式会社 代表取締役
パーソナル・アイデンティティ研究所 所長
経歴
女性のキャリア支援をミッションとしており、これまでに多数の大手企業にて女性のキャリア研修を企画・プロデュースしており、その多くの経験を活かし、女性活躍推進に関する内容を専門とするWisH株式会社を設立。女性を応援する『ハピ女カレッジ』代表として「仕事もプライベートも全部!自分らしく輝きながらはたらく女性をたくさん生み出す」をミッションとして活動。その実績を活かし、2020年11月『パーソナルアイデンティ研究所』と社名をあらため、 人の可能性を引き出すためのオリジナルメソッドを組み立て、現在は女性だけに限らず様々な人々を対象に全国各地にて講座・講演を実施している。
目次
日経スタイルキャリアの記事で、無意識のうちにダイバーシティ推進を妨げてしまう発言として、ランキング形式で以下のとおり紹介されていました。
私の経験上、各企業の経営者や人事部門、現場で耳にする機会が多い発言ですが、みなさんの企業や組織において、当てはまるものはありますか。
これらは女性活躍推進を妨げる「要因」と捉えられがちですが、実際には女性活躍推進が進まない「言い訳」でしかありません。
「どうして女性活躍推進や女性リーダーの育成ばかりが注目されるのか?女性だけ特別視するのはおかしい」という声も聞こえてきそうですが、本当に女性だけ特別視をするのはおかしいことでしょうか。国際比較データを見てみましょう。
まず、就労者に占める女性比率は、日本では44.2%と約半数近くが女性就労者だということがわかります。フランスやイギリス、アメリカなどの欧米諸国ではいずれも40%台後半です。日本も欧米諸国に引けを取らず高い割合で女性がたくさんいるということです。
一方、管理職に占める女性比率は、欧米諸国が30%台半ば〜40%台の水準であるのに対し、日本では14.9%です。管理職に焦点を絞ったとたん、女性比率が少なくなっていることがわかります。
これらの統計データから、「組織内に女性はたくさんいるが、管理職は男性ばかりだ」という実態が明らかになりました。
本セミナーをお申し込みいただいた各企業ご担当者様から寄せられた、女性管理職・リーダー育成における悩みや課題を以下に取りまとめました。
共感いただける点が多いのではないでしょうか。実情として、同じような悩みや課題を抱えている企業は少なくないのです。
参考までにお話ししておくと、上位マネジメント層にステージアップするためには、各ステージで人材要件として求められる能力があります。今回は女性リーダー育成に関するテーマではありますが、これは女性に限ったことではありません。
ステージアップのために求められる能力は以下のとおりです。
ステージアップの段階 | 人材要件として求められる能力(例) |
---|---|
メンバークラスからミドルマネジャーへ | ・両立を成し遂げるセルフマネジメント力 ・周囲の巻き込み力 |
ミドルマネジャーからシニアマネジャーへ | ・リーダーシップの確立と自信の醸成 ・チームの総力を引き出す力 ・マネジメント力 |
シニアマネジャーからボードメンバーへ | ・チーム外ステークホルダをマネジメントする力 ・分析力 ・大局俯瞰力 ・交渉力 |
上記のように各段階で求められる能力は男女ともに同じです。
しかし、女性管理職・リーダーにおいては、「女だから昇進した」と思われないように人材要件以上の能力を求められる傾向にあります。人材要件を満たさないと判断されてしまうと(その判断が正当かどうかはさておき)、無言のプレッシャーをかけられ、女性本人から降格願いが出されることもあるほどです。そのような事態を回避し女性管理職・リーダーの定着・育成を実現するためには、より盤石な施策が必要なのです。
続いて、次世代女性リーダーを育成するうえで押さえるべき5つのツボを紹介します。
“マネジメント”という言葉が難しいためか、マネジメントに対して漠然とした不安を抱える人は少なくありません。マネジメントはリーダー育成において欠かせない考え方です。
まずはマネジメントについて正しく理解し、自身の現状や現在地を確認することが大切です。
難しく捉えられがちですが、マネジメントとは「管理」ではなく「最適化」という意味です。どう進めれば無事にゴールできるのかを考え、要所でテコ入れしていくこと、とも言い換えられるでしょう。
「マネジメント=物事を”いい感じ”にすること(最適化)」と覚えれば、抵抗感なく受け入れられるのではないでしょうか。
マネジメントは誰もが最初からできるものではありませんが、筋トレ同様に継続することで確実に成果が出てくるものです。
そもそも、女性管理職・リーダーの候補者は、自身の業務ですでに成果を出している人がほとんどでしょう。本人が「全然できていない」と思っていても、仕事・折衝・関係性構築・スケジュール調整などを”いい感じ”にマネジメントできている人は多く存在します。
「理想の姿」や「どうあるべきか」を思い描く必要はありますが、仮に不足する部分があったとしても、正しい方法で鍛えるポイントを絞ってトレーニングに取り組めば、自ずとマネジメントできるようになります。
さらに、“マネジメント”と“リーダーシップ”は混同されることも多いため、それぞれをきっちりと区別して正しく理解しておきましょう。
リーダーシップ | マネジメント | |
---|---|---|
定義 | 目的に向けて、影響力により自分と人を動かすこと | 目標に向けて、ものごとをうまく行わせること |
源泉 | 人間性 | 地位・権限・規則 |
視点 | 未来(ビジョン) | 今(プラン) |
使命 | 創造的破壊 | 秩序の維持 |
能力/姿勢 | 知性、経験、前向き、Whyなど | 知能、知識、タスク、Howなど |
出典:南カリフォルニア大学リーダーシップ研究所資料参照
個人レベルでリーダーシップとマネジメントを求められる場面は多く、すでに誰もがそれぞれの力をすでに持っていたり、発揮していたりします。
マネジメントに関する自身の現状や現在地を確認・可視化する方法として、インバスケット演習による疑似体験が挙げられます。
インバスケット演習とは、模擬体験を通じて、能力やスキルの発揮度を観察するために活用される研修手法です。個人の能力やスキルを観察することが目的であるため、結果よりもプロセスを重視しています。
インバスケット演習の結果から、マネジメントに関する「現状と現在地」、そして、「何が不足しているのか」「不足を補うために何に取り組むべきなのか」を可視化できます。
“マネジメント”に続いて誤解を解き、正しく理解しておきたいのが“リーダーシップ”です。
一般的に「リーダー像=男性像」となりがちです。このイメージが形成された理由を、多くの企業や組織でリーダーに抜擢されている男性の割合が圧倒的に多いからではないかと推測しています。
職場で見るリーダーが男性なら、その男性の振る舞いや行動をリーダー像やあるべき姿として捉えても違和感はありません。しかし、本当にそれでいいのでしょうか。
どうしても「リーダー像=男性像」というイメージが先行するため、女性リーダーは「女性らしいからリーダーとして弱い」や「女性なのに気が強い印象を受ける」とギャップを抱かれやすく、女性自身が乖離や葛藤に悩んでいるのが現状です。
次世代女性リーダーを育成するためには、このダブルバインド(二重拘束:2つの矛盾で板挟みの状態)の呪縛から脱却する必要があります。
人が無意識のうちに抱いてしまう思い込みを「アンコンシャス・バイアス」と呼びます。
そして、女性と男性それぞれに求められる社会的な期待役割の違いや固定観念など、性別に基づく無意識の思い込みを「ジェンダーバイアス」と呼びます。例えば、女性には「インポスター症候群」や「ティアラシンドローム」、男性にも「大黒柱バイアス」というバイアスが存在します。
このようなバイアスは、ダブルバインドを生み出す原因です。バイアスから抜け出さなければ、先述のダブルバインドからは脱却できません。特に、女性管理職や女性リーダーに対しては、ガラスの天井(注)を生み出す原因にもなるため、注意が必要です。
※注釈:ガラスの天井…組織内で昇進に値する人材が、性別や人種などを理由に低い地位に甘んじることを強いられている不当な状態を、キャリアアップを阻む“見えない天井”になぞらえた比喩表現です。もっぱら女性の能力開発を妨げ、企業における上級管理職への昇進や意思決定の場への登用を阻害する要因について用いられることが多く、ガラスの天井の解消を図ることが、職場における男女平等参画を実現する上で重要な課題となっています。(日本の人事部HRペディアより引用)
これまでのリーダーシップのあり方の主流は、似たようなリーダーシップのテンプレートに自分のスタイルを当てはめて、理想的なカタチに仕上げていくというものでした。
しかし、リーダーシップは置かれている状況や場に応じて変化するものです。そもそもリーダーシップとは組織やチームに影響力を与え、変革を起こす行動や姿勢のことであり、ポストや肩書ではありません。もっと簡単に言えば、周囲との関係性によって発揮されるものです。
勘違いされやすいのですが、唯一のリーダーシップや最高のリーダーシップというものは存在しません。これからの時代は、自分らしさを持ちながら、状況に合わせてスタイルを柔軟に変化させていける、オーセンティック・リーダーシップが求められているのです。
女性リーダーを育成し、力を発揮してもらうためには安心感や所属感が必要です。どのようなつながりを醸成していけばいいのか、詳しく見ていきましょう。
男性中心社会であった企業コミュニティーには、脈々と受け継がれてきた排他的で非公式な人間関係や組織構造があります。それが「オールド・ボーイズ・ネットワーク」です。
社内派閥や飲み仲間、経営者の親睦団体など形態はさまざまですが、男性の多くはこのようなマジョリティによるネットワークで情報交換や人脈形成を図り、仕事上の便宜を図っています。
一方で、女性はほとんどの場合、マジョリティネットワークから外れているため、組織文化や暗黙のルールなどが共有されず、仕事をやりにくい状況にいます。
体の構造上の切り口から見てみると、男性ホルモンのテストステロンは闘争心や競争意識を高める作用がありますが、女性ホルモンのエストロゲンは気分を高揚させたり高じ過ぎるとイライラした気分になることがわかっています。
女性は満ち足りたときや幸福を守るために闘うため、リラックスや幸福感を得られる職場環境でこそ力を発揮します。
つまり、女性が力を発揮するためには、上司やチームメンバーと「共感し合える」「安心できる」職場環境であることが重要なのです。
上司と次世代女性リーダー対象層だけの「タテのつながり」では派生・発展しない可能性も考えられます。
そこで、OBやメンター、人事部門、後輩や次世代層など、タテ・ヨコ・ナナメ・シタの”面”でのつながりを持つことができるピアグループ活動のような取り組みが有効です。
ピアグループ活動は、同じような悩みを持つ同僚や仲間(ピア)が互いにサポートし合う活動のことです。「互いを知る」「相互に学ぶ」「協働する」の3本柱で成り立っています。
周囲との情報交換や双方が共感できるネットワークが構築できるため、安心感や所属感を得てモチベーションやパフォーマンスの向上につなげられる取り組みといえます。
リーダーに限らず、ビジネスパーソンが成長するのは現場です。したがって、職場実践を通じて普遍性の高い学びを得て、その学びを自身で腹落ちさせる(持論化する)ことが大切です。
そして、職場実践ばかりを続けていても自身の成長に気付けないこともあるため、研修(ワークショップ)を通じて”気付き”を与える必要もあります。
経験学習モデルでは、まず、日々の仕事で「1.経験」をします。次に、仕事や職場で実践・経験したことを、研修で「2.内省」し「3.教訓」を引き出します。教訓を腹落ちさせること(持論化)が大切です。そして、研修で得た教訓を、日々の仕事に紐付け「4.新しい状況に適応」することで、また新たな「1.経験」となります。
経験学習モデルを別の切り口から説明すると、個別具体から普遍、普遍から個別具体を導き出す思考法をチャンクアップ・チャンクダウン思考といいます。
チャンクアップは個々の仕事から普遍性を導くこと、チャンクダウンは普遍的概念から個別の課題を引き出すことです。
さまざまな研修(ワークショップ)や講習会で学びを得たとしても、仕事に結び付けたり、活かしたりできなければ意味がありません。
チャンクアップ・チャンクダウン思考を意識しておくと、実践力や応用力が高まり成長にもつながります。
女性リーダー育成を成功させるためには、経営層も巻き込み、同時進行で上司も育成し、組織全体で意識改革を行うことが大切です。
また、職場実践には上司も巻き込み、候補者の孤立化を防ぎ、成長過程を見守る組織風土を醸成する必要があります。
これまでは「女性活躍=男性と同じ働き方」を求めていました。なぜなら、いまの社会が、働く男性にとって最適化された経済のシステム、組織のルールや美徳によって成り立っているからです。
ある意味男性中心ともいえる環境下では、女性には性別的役割による加重がかかります。また、性差に対する理解や歩み寄りが不足することから、無意識のうちに男性有利あるいは女性不利な環境ともいえます。例えば、昇進や昇格を考えたとき、なぜか女性だけハードルが高いというのが現状です。
このような現状では、女性リーダー育成やDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)は困難でしょう。これからは「女性活躍≠男性と同じ働き方」という組織風土の醸成を目指すべきなのです。
そして、その組織風土醸成や土台作りをアシストするのが本セミナーをお聞きになっている皆さんの役割です。
先ほどお伝えしたとおり、女性リーダー育成を成功させるためには上司を巻き込むことが重要です。
ただ、職場実践において上司を巻き込むときには、ピンポイントで参加してもらったり、最初と最後だけ参加してもらったりする方法はおすすめできません。組織全体でピアグループ活動を支援し、孤立感を防ぐことが大切であるため、随時フィードバックやサポート、面談などを行う必要があります。
ただし、上司からのフィードバックや面談内容は研修参加者のモチベーションに影響するため、以下のポイントは押さえておきましょう。
「あまり褒め過ぎると調子に乗るのではないか」と危惧されているかもしれません。
しかし、実際には褒め過ぎても全く問題ありません。なぜなら、女性には「インポスター症候群」が多いと考えられているからです。「インポスター症候群」とは、自分の能力や実績を認められない心理状態をいいます。
言い換えれば、女性は無意識に自分の能力や実力に自信を持てない傾向にあるということです。
したがって、育成研修に携わりフィードバックや面談を実施する際には、小さなことでも何度も褒めるようにして、客観的かつポジティブな評価を伝えることが大切です。
今回は、女性活躍推進が進まない現状と、次世代女性リーダー育成で押さえるべき5つのツボをお届けしました。性差による仕事上のギャップをなくし、個人の能力やスキルを発揮できる組織を作ることの大切さ、そして、女性活躍推進やD&I実現のためには周囲のサポートやフォローが欠かせない、など女性管理職や女性リーダー育成に課題を持つ皆様にとって、今後の施策を考える上でのヒントになればと思います。
女性管理職や次世代リーダーの育成に関して、具体的な進め方や施策内容についてお困りの場合は、ぜひ弊社までご相談ください。
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