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ダイバーシティ Café - イベントレポート

WisH主催 目からウロコセミナー
男性育休促進において今取り組むべき管理職のイクボス施策~促進のカギは「管理職の自分事化」と「社会最適化」
2021.11.01

男性の育児休業が取りやすくなる育児・介護休業法の改正が国会で成立する中、各社で制度改定を含む施策の検討が進められています。

男性の育休取得促進の取り組みは、母親の産後うつを減らす一助だけでなく、ダイバーシティ&インクルージョンや女性の活躍、人材の採用・定着にも影響を及ぼし、男性社員のキャリア&ライフデザインの再構築にも繋がるなど、会社の「経営戦略」として考える必要のある取り組みです。

本セミナーでは、ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也氏をお招きし、男性育休促進が必要とされる背景や、女性活躍推進とのつながり等についてお話しいただきました。

  • 安藤哲也
  • WisHプロフェッショナルパートナー講師

    Tetsuya Ando

    安藤 哲也

    NPO法人ファザーリング・ジャパン 代表理事
    NPO法人タイガーマスク基金 代表理事
    ライフシフト・ジャパン株式会社 取締役会長
    にっぽん子育て応援団 団長

経歴

明治大学卒業後、出版社の有紀書房に入社
その後、9回の転職で出版社・書店・IT企業で販売・宣伝・クロスメディア事業などに従事
会社員(管理職)として仕事をする傍ら、2006年に父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、代表を務める。その他NPO法人タイガーマスク基金の代表やライフシフト・ジャパン(株)の会長にも就任。にっぽん子育て応援団団長、厚生労働省・イクメンプロジェクト顧問、東京都・こども未来会議委員。著書多数。


1.男性が育休を取得することの意義とメリット

男性育休取得の実態

昨今、男性の育休取得率は伸びていますが、女性に比べてまだまだ取得率の乖離は大きいのが現状です。一方、育休取得について関心をもつ男性は増えており、2017年の新入社員の意識調査では、男性社員の8割が「子どもがうまれたら育休を希望する」と回答しています。また、学生に対する別の調査では、女子学生の9割が、将来子どもが生まれた場合、「夫に育児休業を取得して欲しい」と回答しています。

男性育休への興味

これらの調査結果をみると、企業側は受け皿を作っていないと、優秀な人材を確保できなくなるだろうと予想されます。また、男性の育休だけでなく残業が少ない会社は、採用に困っていないことが多く、女性の活躍推進にもつながっています。

ただ、ジェンダーの問題は根深く、実際に男性育休を取得しようとするとネガティブに考えられがちです。育休取得した方の話しを聞いたり、給付金等を踏まえた収入のシミュレーションをしたりすることで、不安を解消していただくことはできます。また管理職が率先して取得することも、後輩たちの使いやすさにつながり、会社での取得促進に有効な方法の一つです。

男性の育休取得は、女性活躍推進にもつながる

男性が育休を取得して育児と家事のスキルが上がれば、妻の社会復帰を後押しすることができ、妻のキャリアを伸ばすことにつながります。また、社会復帰後以降もワンオペが解消されて、夫が育児家事をやってくれることも、女性活躍推進に一役買っています。

また、妻が活躍することで家計収入も増えるため、夫だけで稼がなくてはいけないという責任が軽減するメリットもあります。安藤講師は育休を取得した家庭で、男性本人も幸せそうで、家族仲も良くなり、妻の仕事復帰も早くなり、企業にとってもプラスになった事例をたくさん見てきたと言います。また、両親がそろって家庭にいることは子どもの成長にも良く、子どもの情緒も安定します。

日経DUALの調査によると、育休を取得した男性の自己評価は、「家事と育児が自分事であることを認識できた」という父親が70%以上にのぼります。常に子どもを見ておかなくてはいけない不安や緊張感というものは、育休を取得してみて分かることです。また、25%は妻の仕事復帰時のサポートができたのでよかったと回答していて、良かったと思うことが何もないという人はいなかったというデータがあります。

育休取得した男性自己評価

一方、妻側から見た「夫の育休取得に対する評価」は、半数以上の人が体調が優れない産後に、夫のサポートがあって良かったと回答しています。現在は、コロナで里帰り出産もできないので、夫が育休を取得してくれたことや、取得させてくれた会社に感謝したいという回答もありました。

夫の育休取得に対する妻の評価

実際に夫のサポートがなく産後うつが重篤化して、ひどい場合は妻が自殺や、子どもと心中してしまうケースもあります。このようなことを企業側は認識して、男性の育休を取得させていく必要があります。

男性の育休取得に課題は大きいですが、対子ども、対配偶者、対夫婦関係におけるメリットを説明することで、徐々に男性側・企業側の意識がアップデートされてきていると安藤講師はいいます。

男性育休取得者のメリット

育休を取得する男性の数は増えていますが、取得期間が短いなど質が伴っていないという問題もあります。女性の場合は、1年取得するのが当たり前ですが、男性は2週間未満が8割以上になっています。最近は、早く復帰して夫にバトンタッチするというケースも増えていますが、それでも女性に比べて短くなっているのは今後の課題です。

また、業務が属人化され代替要員を確保できないことや、会社に男性の育休取得制度がなく申請する意識がない等、まだまだ育休が取得しづらい環境が根強くあります。会社に制度はなくても法律はあるので、育休を取得したい場合は、人事部や総務部に相談すれば制度を作るキッカケにもなります。

男性育休がもたらす企業のメリット

男性が育休を取得することで、取得者だけでなく企業にも大きなメリットがあります。
育休取得者にとっては、次の3点のメリットがあります。

  1. 仕事の棚卸ができて、業務のやり方を見直すきっかけになる
  2. 限られた時間の中で結果を出す、時間管理能力、効率的な働き方が身に付く
  3. 感謝の気持ちを持ち、社内コミュニケーションが良好になる

また、企業にとっては次のようなメリットがあります。

  1. 職場の雰囲気が変わり、仕事も見直すきっかけ
  2. 業務の見える化、業務の棚卸しで多能工化して、業務の属人化を排除
  3. 長時間労働の是正につながる
  4. 企業イメージが向上し、人材確保に寄与し、離職率が低下
  5. 帰属意識が高い社員の定着率の向上

このようなメリットが活かした会社として、ある建設会社の事例を紹介していただきました。

主任のBさんが一ヶ月育休で、少人数でどう回そうかみんなで考えるようになり、無駄な業務をやめようということになりました。そして、主任がやっていた仕事を補佐のCさんが、Cさんのやっていた仕事を若手のDさんがやったりと、一人一人が成長する機会になりました。そして、成長した頃にBさんが戻ってくるので、以前よりもチーム力を上げることができました。

男性育休取得の職場メリット

メリットをしっかり理解した企業では、男性育休100%や1ヶ月義務化などの流れができています。
「男性が育休を取得することはいろんなプラス効果がある」ということを、管理職のみなさんに伝えていただくことが、「イクボス」の養成にもつながるのです。

2.男性育休含め多様な社員を活かすために必要なイクボスの心構えと実践

ピラミッド型の組織が崩れ、フラット型になり、働き方も含めて多様性を受け入れられるマネージメントが必要になっています。ファザーリング・ジャパンが推進するイクボス企業同盟でも、上手くいっている企業と、上手くいっていない企業に二極化しているといいます。

上手くいっていない企業は、管理職の意識が変わっておらず、「なんで男性が育休を取得する必要があるの?」という意識があります。それは、男性は長時間会社のために奉公して、家のことは育児も含めて妻がやることという時代を経験してきたからです。そのような管理職の方々にとって、若い男性社員が育休を取りたいと言うことが理解しがたいという現状があります。あるいは、頭では理解されていても、実際に育休で欠員が出たときの業務体制について準備ができていません。

実際に男性育休を取得するときのために、生産性向上のための働き方改革をしていくこととや、自律型の社員を育てていくことが必要です。「イクボス」の「イク」は「育てる」という意味で、部下や職場を育て、誰しもが働きやすさと働きがいをもって成長できる職場にしていくということが重要です。

組織の生産性を高める

かつては、仕事にプライベートは持ち込むのはNGの時代でしたが、これからはプライベートと仕事は、同じ地平で上手くバランスをとっていくことでモチベーションを高めたり、家庭が安定することで仕事につなげていく時代です。そのため上司側は、多様性を活かして、成果を伸ばしていくことが求められます。

安藤講師自身がマネージメントを経験してみて、気付いたイクボスの3つの心得を共有いただきました。

  1. Fairness(公平性)
  2. Humanity(人間性)
  3. Justice(公明正大)

部下は上司のこのような部分を見ているといいます。「あの上司に相談すれば解決・応援してくれる」、と思われるような信頼関係を築くことが重要です。

子育てにおいても、父親が仕事ばかりで、家庭を省みなかった結果、子どもが父親と一言も話さないようなケースがありますが、部下育成においても同様だといえます。子育ては部下育てに通ずるのです。

得ボスからイクボスになる

今の50代のボスは、かつては部下のワーク・ライフ・バランスを無視して売上につなげていく、「激ボス」でした。しかし、給料が上がり続けていたので、部下から不満も出ませんでした。

ところが、バブル経済の崩壊後の平成10年~15年くらいに、無碍なノルマを課して過労死させてしまうなど、激ボスの働かせ方が社会問題化します。そこで「ノー残業デー」が企業で作られた時代を、安藤講師は「ダメボス」の時代と呼んでいます。

上司→イクボスの推移

そこから15年が経過した今は、「得ボス」の時代です。これは、働き方改革ではなく、働かせ方改革で終わっているボスのことを言います。「早く帰れ」や「休みをとれ」しか言わず、残った仕事はボスがやるという、部下にとってお得なボスです。ボスの7割の人は得ボスになっていて、働き方改革の本質を理解していません。そうなると、本質を理解していないので、男性育休に対しても、部下を休ませて自分が働くという同じ事態になりかねません。

得ボスばかり増えた企業は、若手が権利ばかり主張して、甘やかしてしまうので成長していきません。そうではなく、部下のライフに配慮しつつ、きちん成果につなげられる「イクボス」が必要で、「権利主張の前に職責を全うする」と、言い続ける管理職を増やすことが重要になってきます。そうならないと、個人も企業も成長しません。

かっこいい・信頼されるイクボスになろう

部下とのコミュニケーションのポイントは、受容・称賛・期待・共感と、子育てでも一番大事なことです。それを上司が部下に実践していれば、自分自身も満たされて、自ずと心理的安全性が高まり、部下が育つのでハラスメントも発生しません。企業はハラスメントの対策を考えるよりも、上司のワークバランスを考えた方が有効だと言えます。

また、若手が管理職になりたがらないという話をよく聞きますが、それは憧れるような管理職がいないからです。それを防ぐためには、仕事ができ、家庭も大事にして、自分の人生を豊かに送っている上司になって、「あんな風になりたい」と思わせるようになることです。

ずっとこの人と仕事がしたい、褒められたい、だから成長したい。そして将来管理職になるために自分も「イクボス」になりたいと思わせることが、「イクボス」の真骨頂です。そのためには、常に部下とコミュニケーションをとって、いろんなライフ情報を把握した上で、自分自身のワークバランスも整えていくことが重要になります。

このように、イクボスになるとチーム力がアップしたり、いろんなリスクが軽減につながるので、そういう会社は優秀な人材が辞めずに定着し、新しい人材も入ってきます。つまり、ワーク・ライフ・バランスとダイバーシティは両輪の関係にあり、両者がどちらも回ることが業績、持続可能性につながっていくということです。

イクボスがいる職場は

また、制度があってもそれを運用できないのは、風土に問題があり、風土を決めているのはほとんど上司です。上司が変わらない限り職場は変わりません。ボス自身、本質を理解して変わる覚悟を決めることが必要です

3.イクボスを増やすために会社ができること

イクボスによるダイバーシティ推進

イクボスは、ワクチンのように1回打てば効くというものではありません。漢方薬のように、飲み続けて、1年後くらいにようやく体質が変わるというものです。イクボスを増やすために組織が実践できることが大きく4つあります。

  1. 内外への発信を続ける(社長メルマガ、社内報・イントラ等の活用、メディア取材)
  2. ロールモデルの可視化(ex、イクボスアワード)
  3. あらゆる社員への研修を継続する
  4. 社外ネットワークの活用(ex.イクボス同盟ひろしま)

イクボスとして組織の好循環を作っていくことで、企業としてプラスになっていきます。それは一企業の福利厚生や経営戦略だけにとどまらず、強い会社が増えることで、日本経済が向上し、所得が増えることにつながります。そうなるとワーク・ライフ・バランスが充実して、一人一人がやりたいことをできる社会になっていくでしょう。それが「男性の育休は社会を変えるボウリングの一番ピン」ということです。

男性育休は社会を変えるボウリングの1番ピン

最後に、まずは意識改革から始めよう
打ち合わせ風景

今回のセミナーでは、イクボスが増えることで男性育休に限らず、女性活躍推進やダイバーシティがさらに推進していくということをお伝えしました。ぜひ、何をすれば働きやすい職場になるか、チームで考える機会になれば幸いです。

当日の配布資料は
こちらからダウンロードできます

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