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Vol.11 藤原加代
カナダレポート:無意識の偏見と向き合う
2018.11.30

こんにちは。WisHの藤原です。
少し時間が経ってしましましたが、
実は今年6月にカナダのバンクーバーに1週間ほど行ってきました。
目的は、もう10年以上前に仕事で滞在していたときに
出会った美しい風景が忘れられなかったということと、人に会う為でした。

向こうでは、まず普通のスマホで撮影してもこんなにきれいに見える
カナディアンロッキーとそのエリアの美しい湖を満喫しました。

 

 

 

 

運転した距離はなんと、4日間で3,000キロでしたが、
途中、野生の熊にも遭遇し、全く飽きることがありませんでした。
こういう自然に囲まれて生活したら、心も穏やかにならざるを得ないだろうなどと思います。

 

さて、本題です。
ここでは、向こうで会った人たちの中でも、
ヤボンさん(Dr. Yabome Gilpin-Jackson)との出会いと彼女から聞いた話を紹介させていただきます。

 

ヤボンさんは、アフリカのシエラレオネ出身で、内戦により高校生の時にご両親と共にカナダへ移住されました。
様々な困難を乗り越えて、現在は、Fraser Healt というブリティッシュコロンビア州最大
複合医療法人 人事部門統括責任者として、組織開発を実践しておられます。
また自身の会社を持ち、組織開発のコンサルタントとしてご活躍されています。
組織開発実践者としては、ODネットワークが選ぶ「最も活躍した若手OD実践者2017」の初代受賞者に選ばれています。
さらには、作家でもあり、アフリカ女性解放活動家で、2児の母でもあります。
これを聞いただけでも一体何人分のエネルギーが詰まっているんだろうと思ってしまうぐらいの方で、
実際にお目にかかった瞬間から、確かにそのエネルギーは溢れていました。

ちなみに、ヤボンさんは日本で今年の7月に発売になった
「対話型組織開発(英治出版)」という本の第11章「対話型OD における変容的学習」も執筆されています。

素晴らしい経歴を持ち、今まさに様々な分野でご活躍中のヤボンさんですが、
お子様が3人いらっしゃるということで、どのように仕事と家庭を両立してきたのかを聞かせていただきました。

 

 

ヤボンさんの場合は、3つのポイントがあったとおっしゃっていました。
1つ目は、家庭の背景です。
カナダで生活していくにあたって、「なんで、英語がそんなにうまく話せるの?」という
アフリカン人へのステレオタイプ(=アフリカ人だから英語はネイティブではない)がある中でも、
両親ともに教養がある方たちであり、特にお母さんの影響が強かったようです。

博士号を持っていたお父さんと、フルタイムで働く、教員免許と修士号を持っているお母さんの元で育ったヤボンさんは、
子育てをしながら、大学院に通い、そして働く「お母さん」をみながら育ってきたため、
子どもを持つ女性が学歴やキャリアを積み上げることに違和感や抵抗を感じなかったようです。
「私のお母さんは、8人も子供がいたのよ。私はたったの3人の母なの!ハハハ!私はそんな母を見て育ったのよ」
と力強く語る彼女にとって、子育てをしながら、働いたり大学院に通ったりすることは、
何も特別なことではなかったようです。
余談ですが、そうはいいながら、自身が実際に母親になったときには
お母さんに「ちょっと、お母さん!どうやって(8人も子どもがいて)やりくりしてたの?」って聞いたりもしたそうです。

今の時代は、既にワーキングマザーとして活躍していらっしゃる方も増えてきているので、
自分の親がそうでなかったとしても、身近なところにロールモデルを見つけるのは、あまり大変ではないかもしれません。
もし仮に、社内に見当たらなくても、一歩外に出れば、いくらでも見つけられる時代だと思いますが、
どういう人に出会って、囲まれて過ごすかは大切だと思います。

 

さて、2つ目は、個人の性格的なものだとヤボンさんは言っていました。
彼女の場合、マルチ・タスクができるということだそうです。
つまり、同時にいくつかのことができるかということで、
これは、個人の先天的特性もあるかもしれませんが、ポイントやコツ、要領さえ押さえれば、
ある程度は誰でもできるようになることではないかと個人的には思っています。

 

3つ目は、バリュー、価値観だと言っていました。
自分にとって本当に大切なことに対して、行動を起こしていけること。
ヤボンさんは、いい仕事についていても、それでも社会的な開発や人道的問題、
アフリカのリーダーシップのことなどについて自分が無力だと感じることがあったそうです。
それでも、振り返りながら、「私ができるのは、私ができる範囲のことである」と思えたときに、
その想いやもどかしさが重荷ではなく、自分の情熱に変わったそうです。
つまり、そこからは自分ができることから行動に移していくことができたということですが、
この部分が彼女を根底から支えていてくれたものではないかと私は思いました。
今の日本社会は、タスクや時間に追われ、
自分の人生にとって、本当に大切なものは何かを俯瞰して見直す機会がなかなかないようにみえます。
ヤボンさんの場合、その大切なものや価値を見失うことなく、
それを原動力として、目の前のできることから取り組み、行動を起こし続けてきたその積み重ねが、
今いるところまで来られたのだろうとも言えます。

 

様々な彼女のストーリーを共有してくださりながら、企業がインクルーシブになっていくためには、
マインドセットを変えていくことも大切だけど、制度や仕組みを整えることも大切だというお話や、
労働時間を縛るのではなくアウトカム(成果)を基準とした評価が必要だというお話もありました。

 

そして、一番、印象に残っているのは、
最近、日本でも少しずつ語られ始めている無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)についてのお話です。
やはり、ヤボンさんも、企業がインクルーシブになっていくための一番の壁は無意識の偏見だとおっしゃっていました。
ダイバーシティが進んでいるというよりも、
住んでいる人たちの構成が、そもそも日本とは比べものにならないくらい多様なカナダでも、
まだそれは残っているようです。
難しいのが、人は自分の無意識の偏見に気が付いたとき、自己防衛的になり自己正当化をはじめ、
ひいては攻撃的にもなる得ることだとおっしゃっていました。
確かに自分自身の無意識の偏見に向き合うのは居心地がいい体験とはいえないかもしれません。
ただ、無意識の偏見は誰しもが社会的な影響によって持ちうるものであるということを、
私たちは知っておく必要があると私は思います。
そして、鎧を着て自己防衛する必要なく、武器を持って誰かを攻撃する必要もなく、
自身の無意識の偏見に心を開いて向き合い、自覚的になれる安心安全な場が、これからは増々必要になってくるでしょう。

 

ということで、カナダのバンクーバーでのヤボンさんとの出会いとそこで伺った内容のダイジェスト版でした。
経歴をみると、とても輝かしく素晴らしい彼女ですが、
それでも、まだまだあの短時間ではお聞きしきれなかった
たくさんの彼女の苦労などもあるであろうことは想像に難くありません。
それでも、そんなのは全く感じさせないユーモアと素敵な笑顔、大きな笑いで、
彼女との時間は、あっという間に過ぎていきました。
いつか彼女を日本でお迎えしたいものです。

 

最後に、この出会いをつないでくださった中京大学経営学部教授の永石信先生に、心から感謝です。

 

変えられるものを変える勇気を、変えられないものを受け入れる冷静さを、
そして両者を識別する賢さを与えたまえ(ニーバーの祈り)

 

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