Diversity Caféダイバーシティ Café


ダイバーシティ Café - 対談

「研究者×開発者」
安藤 史江
南山大学大学院ビジネス研究科 教授
「組織成果を高める仕組みとは 〜ゆとりや余裕こそが生み出すもの」
2017.06.20
Guest Profile

安藤 史江

南山大学大学院ビジネス研究科 教授

東京大学大学院経済学研究科博士課程、
南山大学経営学部講師、助教授、
南山大学大学院ビジネス研究科 准教授を経て、2014年から現職。
博士(経済学)
組織の知のメカニズムを探る組織学習、
より高いレベルの学習を可能にするための組織変革に関する調査、研究を行っている。
著書には、『組織学習と組織内地図』(単著、白桃書房、2001)や『コラボレーション組織の経営学』(共著、中央経済社、2008)などがあり、近著は、『組織変革のレバレッジー困難を跳躍に変えるメカニズムー』(白桃書房、2017年6月2日)がある。
http://amzn.asia/izSRZsa

■女性活躍推進の領域に興味を抱かれた理由
前島 まずは、そもそも「組織の領域」をご専門としていた安藤先生が女性活躍の研究に踏み出したきっかけを教えてください。

安藤 研究者として歩み始めた当初は働く人々の間に性別・国籍などのダイバーシティがあったとしても、その影響以上に、ひとつの組織として成果が出るか?出ないか?に主な関心があったため、組織の研究をずっと続けてまいりました。
その研究を進める中で、今の組織のままでというより、こういう組織に変革するとより目標達成できる、というような組織変革の研究へとシフトしていきました。そして、そうした組織変革の一環として最近では、女性活躍推進や働き方改革にも注目し、取り組んでいるというわけです。
女性活躍に関する研究や取り組みには長い歴史と蓄積がありますが、実際に自分が育児と仕事の両立に悩む当事者になった立場から勉強してみると、いずれも自分のモヤモヤした気持ちに応えてくれるものが少ないという印象を持ちました。具体的な経済的な成果を求める組織と、権利を主張するのに組織に阻まれている個人、というように、どこか個人と組織の対立をあおりがちな印象でした。しかし、個人と組織とを半ば対立構造化して、バラバラに話を進めているのはもったいないと思いました。お互いが協調しあいながら、それでも成果を出せるメカニズムを考える必要があるのではと思い、ここ数年取り組み始めています。

■現在の日本での女性活躍の構造的原因とその突破口
前島 組織の問題や組織開発のポイントは、女性活躍推進だけではなくいろいろなところにあると思うのですが、その中でやはり「女性」に着目せざるをえないのは、日本の社会の構造的な部分に問題があるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

安藤 日本の労働力減少により、女性にも働いてもらわないと困るという意見がまず出てきました。さらに、国際的に日本の女性を見てみると、管理職や役員に就いている方が少ないという“外圧”が起きてきました。そのため、今は「とりあえず女性」がテーマになっていると思います。このような外圧がなければ、そもそも企業は動かなかった可能性があると感じています。

前島 日本は「女性」以上に「移民」という選択肢は厳しいので、「女性」か「シニア」の活用に進むと思います。
そして外圧ということですが、韓国と日本は似ていると言われていて、いずれも先進国と言われながらも女性が活躍しづらい状況と言われています。根強く影響を及ぼす文化や伝統を乗り越えることはできるのでしょうか?

安藤 日本で希望が全くないと考えてはおりません。現状でも「東京」と「地方」では違いが生まれてきているとされています。たとえば首都圏では共働きが普通になり、女性もキャリアアップを目指す方が増えています。その動きは地方にもジワジワと広がり始めている。日本が変わり得る要素や乗り越えられる可能性は十分あるのではないでしょうか。

前島 文化や伝統にあまり縛られないベンチャー企業なら、より可能性が高いと考えられますか?

安藤 その可能性はあると思います。つい最近実施した調査結果から、「働くときに障害となりやすいこと」に、上司の理解、親の理解、地域社会の受け入れ態勢を挙げる方が多いので、ベンチャー企業が理解ある職場を提供しやすい場合は、期待できるのではと思いますね。

前島 都心の共働き夫婦の場合、経済的な理由でパートナーからの「仕事辞めないで」という圧力で働き続けている可能性がありますよね。
地方より高い生活費のため仕事を辞めにくい状況なのに対し、保育園に入れにくく、親は地方にいるので頼れないなど、働きにくさ、阻害要因は多々見受けられます。そのために女性自ら「ここまででいいです」、組織側も「それで精一杯なんだから(それ以上は悪いよね)」とお互いが線を引いているように感じますね。

安藤 全力を発揮すればものすごい成果をあげられるはずの方の力が発揮されないのは、会社・個人双方にとって非常にもったいないことといえると思いますが、それがやむをえない場合もあると思うので、「今はこの状況だからこちらを選ぶけど、状況がこうなったらこちらの道を選べる」といった柔軟な対応や選択肢を企業が整える必要があると考えます。


■“ゆるい”組織が成果を出す?
前島 弊社は最近の打合せで話題になったのが、社員の「ぶら下がり度合い」という指標です。女性に限らず会社としては、ぶら下がり度が気になるという声が非常に多くあるためです。

安藤 そうですね。ぶら下がり、というと悪い印象ですよね。
でも、必ずしもそうでない側面もあるんです。
経営組織論では「組織スラック」という言葉がありまして、強い組織はスラックが豊富と言われています。

前島 組織に余裕があるというような意味でしょうか?

安藤 例えば、専業主婦は普段はのんびりしているように見えても、いざという時に家庭の要として家族のサポートに回れるという重要な役割を家庭において果たしています。同様に、企業においても新製品を開発するときに組織スラックの余剰がないと力が出ないと言われています。もちろん、組織スラックばかりだと効率は悪くなってしまいますし、その場合には、「実力とやる気はあるけれども」という条件が大事です。やる気や能力がなく使えないとなると組織スラックにもならないため区別が必要です。

前島 育児中の女性に限定してみると「今は子どもが小さいからセーブしている」という女性社員が、そのままぶら下がりになっている恐れがあると、会社側は気にしています。
ただ、実際に育児との両立が大変と言われてしまうと、現状は打ち手がないという企業が多いですね。
ぶら下がり度を気にする企業からの声の背景には、ここ数年で育児時短勤務者がもの凄い勢いで増えてきているという事実があります。能力はあるけれど「それを100パーセント発揮して」という期待には、今すぐには応えられない層。100パーセント発揮しないことがだんだんと当たり前になっていって、ずっと80パーセントでセーブし続けたために100パーセントの力の出し方を忘れてしまっている人たちについて会社としても懸念しているようです。

安藤 仕事には、個人だけの努力で対応可能な部分とネットワークが大きな意味をもつ部分があります。後者は前者以上にメンテナンスにコストがかかります。80パーセントでセーブしている間に切れてしまうネットワークがあれば、いざ100パーセントの働き方に戻ろうとしたときに、本人の能力が低くなったわけではなくても仕事には大きな支障が出る。その対策としては、100パーセントに戻るための助走期間を用意するのが一番ではないかと思います。
なお、さきほどの「組織スラック」の話は、アリやハチの世界に置き換えて考えてみるとわかりやすいと言われています。

前島 アリの世界にも働いているアリと、働いていないアリがいる、という話を聞いたことがあります。働きアリもみんな働いているわけではないらしいですね。

安藤 まさにそれです。全員が外に働きに行ってしまうと、もしそこで何かあれば全滅してしまう恐れがあります。中に何人か残っていることで、リスクヘッジしているんですね。また、全員が外に出ているときに巣に攻めてこられると、それも困るわけですよね。
人間で2:6:2と言うと、できる人:普通の人:できない人の比率のような使われ方がされますが、アリの世界ではみんなできるけれど、今役割として働いている:働いていないという区分けに過ぎないとされており、まさに組織スラックの本来の意味に近いと考えられます。

前島 これから、年齢・性別問わず働き続けるのが普通という時代になると、介護の問題や、ガンなど労働者自身の健康面の問題など、みんなが何かしら抱えながら働くと言われています。
福利厚生の制度を順番に使うという発想に近いですが、“余裕”という意味での「ぶら下がり」がみんなに回り回っていくといいと思いますね。

安藤 女性、高齢者、外国人など一括りにダイバーシティという言葉で表現されますが、ダイバーシティが進むことによって仕事の仕方は変わっていくべきですし、本気で導入するのであれば変えざるを得ないと思います。
色々な会社がありますが、大企業の中にはまだ、会社のいうままどこでも何時間でも働ける健康な労働者が前提となっている男性ルールで動いている会社が多いです。そこでは男性ルールに合わせられる女性しか働けなくなってしまう。ぜひ戻ってきた女性にはダイバーシティの視点の提案をできるような活躍を期待しています。

■多様な価値観の時代
前島 女性活躍推進を考えている企業の中からは「必要だと思うがなかなかできない」という声はよく聞きます。また、「実際に取り組んだら組織にひずみが生まれてきてしまった」などの問題も起きているようです。

安藤 組織や職場は、違う価値観を持った方を理解できる繋ぎの方、翻訳者の方がいて、初めて機能します。したがって、管理職にはそれなりの教育が必要だと思います。
ただ単に女性をプロジェクトに入れましょう。増やしましょうと言っても、相互の関係性が変わらないまま話を進めては、「勝手なことを言って」と反目するだけで終わってしまう恐れがあります。
もともと女性を入れる目的は、自分が気付かなかった視点を見せてもらうことで、組織や自分の選択肢を広げたり、創造性を高めることだったはずなので、まずはそうした目的を実現しうるような土壌を作ること、そのためのマネジメント教育が大事かなと思います。

前島 今のコミュニケーションのような話で言うと、女性側も権利の主張ばかりでなく、「どういう状況にあるのか?」など事情を可能な限り謙虚に共有して、「これはできないけど、これならできる」をうまく伝えることが大事だと思います。
お互いが分かろうとする姿勢、コミュニケーションを取る努力をしたほうが、全体的にうまくいき、結果として成果に繋がると考えています。
一方で、企業も単一の男性の価値観でここまで来ていますから、女性が男社会に切り込んでいくときに、その裏ルールのようなものもある程度知っておくことが女性側に必要です。男性はそういった女性の苦労や阻害される気持ちをあまり気遣ってくれないですから(笑)、ルールを熟知してから男社会に入っていく賢さも女性にも必要なようです。

安藤 それは、小さい頃からの遊び方ですでに身に付けている違いと指摘する議論もあります。男の子の野球やサッカーにはルールの範囲内であればここまではやっていいということを認識しあっているけれど、女の子のおままごとは単に仲良く楽しければいいという感じでルールはない。自分がプレイヤーとして参加しているゲームのルールへの認識の違いが、その時期からジワジワと蓄積されていて、大人になってからも影響を与えているというのです。

前島 そうやって育った男性たちだからなのか、男同士は飲みに行けば何とかなると考えている男性上司の方がまだ多くいますね。
一方で「管理職にならなくていい」と思う男性も出てきており、その価値観にも企業が応えていってほしいですね。

安藤 男性が「育児休暇を取りたい」と言うと、まだまだ叩かれるようですね。また、管理職においても「ちょっと1年間、海外で勉強してくるから」といった働き方が認められてもいいと思うんですが…。レールは1種類しかなく、そしてそのレールに一度乗ってしまうと降りたら終わりというのではいけないなと思います。
絶対に男性でも降りたいと思うときはあると思うので。

前島 男性で言うと、介護の場合はやはり離職につながりやすいようです。それは会社としても大きな損失になります。残った人間で何とかしないといけないとなると、残った方もつらい。

安藤 本人の病気やメンタルヘルスの問題となると別の問題が発生してきます。そんな勝手なことが許されてはという意見もあると思いますが、それぞれの人の状況に応じた柔軟な働き方を許容するような受け皿もあるといいと思います。

前島 まさにそういった多様な受け皿があるといいですね。例えば、欧米ではパートタイムのマネジャーが普通にいますね。職務を切り分けて各人に任せている働き方だから成り立つ。日本はジョブ型でなく「人」に仕事を任せるので、その人がいなくなってしまうと困る、という職場が多いと思います。それが多様さを難しくしている点ではないでしょうか。
■これからの時代、成果を出すのは「チーム型」
安藤 チーム型で仕事をすると、一人の都合が悪くなったときに、他の方が補えるという良い面はあります。
いつもカバーする側とされる側というのが生じ、不満が溜まるという面への対策を考える必要はありますが、今後はチーム型の進め方を考えていくと必要がより高まると思うのです。

前島 その場合、チームの采配を担うポジションの人、つまり管理職がどうマネジメントしてくかが大事になってきますね。

安藤 リーダーのやり方の違いによって成果は変わります。今、実施している調査からは「一人ひとりの個人の能力を上げてこそのチームです」と話すリーダーの場合は割とうまくいってなくて、「できない人はできないなりに考えてチームのことをやればいいよ」というリーダーの方が成果に繋がっているように感じています。

前島 「その人の成長のためを思って頑張らせる」というと聞こえはいい気がしますが、必ずしもそれがチーム全体の成果につながらないということですよね。チーム内で互いの話が共有できて、相互に補い合い、それぞれの形でチームに貢献するという意識があるといいのではないでしょうか。

安藤 チームとしてやっていくのであれば、できない人を責めるより、誰かができないときに他の誰かがカバーできるチームのほうが強いと思います。人生は長いので、常に誰もが全力で走っていけるわけではないですから、力が発揮できない時にお互いカバーし合えるほうがいいわけです。

前島 社内の別の職場であっても、会社というチームで受けている仕事として、うまく共有し補い合って成果を高めるという意識や、チームに貢献する働き方が大事になってきますね。
私自身、ずっと育児をしながら働いている中で思うのは、女性でも男性でもライフイベントなどで休んだ分は割り切る、一方で一生懸命働いた人は報われる、といった仕組みにできたら…ということです。
個人の価値観や働き方はそれぞれですので。

安藤 会社が制度として整えていても、人生では様々な問題が起きるので、その時々でどうするのかを考えなくてはなりません。会社としても非常に悩ましい。会社と自分だけ、または自分だけで頑張るというよりは、より広い範囲を巻き込んで考えていくことが必要のように思います。

前島 例えば、子どもができて働き方が変わる時に、どうやって周りを巻き込むかですね。「こうするといいよ」とアドバイスしてくれる人が、社内など身近な環境にいると助かりますから、仕組みとしてそういう支援も有効だと思います。

安藤 会社自体がだんだんと「仕事だけを提供していればいい世界」から違ってくるということですね。
■仕組み・制度の有無、運用との差異
前島 社内のイントラでSNSを立ち上げている会社も最近はよく聞きますよね。相談を投稿すると担当の先輩パパママが答えてくれるという。ある企業では、立上げは人事が関わって、動き出してからは人事以外のボランティアメンバーが主に担う形にしたそうです。子育て世代が増えて仕組みが機能している例ですね。

安藤 組織論的にも公式組織と非公式組織という考え方があって、今までは公式組織ですべてがうまくいくように設計することが基本とされてきた時代がありますが、と長い間教えられてきましたが、今は非公式の力の重要性が一層認識されてきていると思います。に頼る機会が増えています。環境が複雑になってきて、何も先が見通せないときに、会社がしてあげられることは限られています。非公式組織が機能するなら容認して活用することがよいという考え方です。

前島 先ほどの組織スラックの余剰のように、非公式だけど許容するということですね。結果として満足度が高まるような気がします。

安藤 休憩室とかタバコ部屋と似たような意味合いでしょうか。そういったところから新しいアイディアも生まれてくると考えられているので、やはり会社の中にゆとりがあるといいのかなと思います。でも、今は「そんなことを言ってもゆとりの時間なんか作れないよ」という上司もいるようですが。

前島「会社にこんな制度があったらいい」と設けてもらっても、いざ使ったら不便や不満が出るようではもったいないですよね。

安藤 制度だけ作って安心していてはダメです。制度は「前例がないから許可できません」というものをなくす免罪符程度の意味しかないと感じています「使えない」「使いにくい」となった時に、「そもそも何のための制度だったのか?」という原点に立ち返り、「より高い組織の成果を出すため」という軸にすぐに立ち返る必要があると思います。

前島 今の時代、能力のある女性が本当に増えています。せっかく入社してくれたそういう力のある女性たちが、ライフイベントや家庭に何かあった時でも、うまく対応できるような制度があると、働き続けていけるのではないかと思います。
「女性に活躍してほしい」という期待を込めて以前から制度を作っていると自負しているある企業で、「総合職の女性がいざ転勤となった時に、なぜ不満を言うのかわからない」という話を聞いたことがあります。会社は一生懸命やっているかもしれないけれど、現場の女性の実態をよく把握して対応を考えなくてはならないことを、会社も理解する必要がありますね。

安藤 逆に、一般職で入社した女性にも入社後に自由に総合職に移れるような制度がもっとあってもいいと思います。もちろん今もあるわけですが、非常に限られているという印象があるので。

前島 職種転換については、失敗されたら困るというような思考があるのでしょうか。総合職で入社して、家庭の事情で転勤NGになったのに、一般職や地域限定職への移動ができない会社もあります。そうすると選択肢が離職しかなくなってしまいますが…。

安藤 制度に囚われてしまうのは問題ですね。昔、制度が整っていなかった頃にキャリアアップされた女性たちの上司がどうされていたかというと、男性並みに働いたというのはもちろんですが、案外、上司の裁量でというのもあったと思います。今もそうした裁量は使えたはずなのに、制度ができたからこそ逆にできなくなったことも増えているのではないかと感じており、そうだとすると問題ですよね。
また制度があっても当時者になるまで理解できないことはよくあるので、非公式な場でざっくばらんにいろんな方の経験談を聞ける機会があるといいですね。
■「非公式」と「余裕」 ~考え方のリセット
前島「非公式」がひとつのキーワードかもしれませんね。いざという時に「公式には」という画一的な見解しか教えてもらえないと、現実的には困るはずです。

安藤 裏情報として「こんなことをやってきた人もいるんだよ」という話が聞けると、開ける道もあると思います。一本線だと思っていた道に別のルートが見えてくるような。
そういった仕組みが整っていない現状では、やる気と情報量に頼るしかなく、結果として個人差が生まれているのかなと思います。かと言って会社が認める場では、画一的な、表面的な話しかされなくなるでしょうから、裏情報が聞ける場のようなものは、「容認している」という状況がベストだと思います。
さらに、容認できるような労働時間であることが重要です。みんなが残業しているような職場では、そのような発想は生まれてきません。比較的早めに帰れる環境を作ることは大事だと思います。

前島 成果と余裕がうまく両立しているような環境ということですね。100パーセントの力を出し切っていると、これ以上また成果を出せと言われると非常に苦しい。だいたい8割から9割の力で成果を出せている状況であれば、次にどうしようと考える余裕や、気分転換の余裕も生まれるはずです。

安藤 戦略的になんとなく余裕やほころびを作っておくことが大事になると思います。
完全に規則や制度で固めると、どこか疲れが出てくるはずなのに、それが当たり前であると何となく過ごしてきてしまったのがこれまでの働き方だったと思います。今は「80パーセントくらいで細く長く」という考えにだんだんシフトしてきている。「全員120パーセントで倒れるまで働け」という時代ではなくなっています。全員が討ち死にするわけにはいかない。少子化や労働力不足となっているのですから、考え方を変えなければならないと思います。

前島 労働力不足の時代に専業主婦の奥さんを持った120パーセントで働ける男性社員ばかり採用できないのは明らかですからね。

安藤 女性は80パーセントでいいから、男性は120パーセント働き続けなさいなどとやっていると、120パーセントのほうがポキッと折れるわけです。それではいけませんし、一方で120パーセントの方が80パーセントの働き方を「ずるい」と思ったり、80パーセントの方が120パーセントの方を見て「あんなふうにはなれない」と思ったりしたら逆効果なので、ちょっと極端なことをいえば、ここは全員がドーンと80パーセントに下げてしまうのがいいと思います(笑)
したがって、企業は一度考え方のリセットをしなければならないと思います。その際は、「今までのやり方ではできないから、無理」という思考停止ではなく、「では、どうしたら実現できるか?」という考え方をすることが必要と思います。

前島 10年や20年かかるかもしれませんが、本当の意味でのイクメンの男性が経営を担うようになって、経験を活かしてくれるようになると変わってくるかもしれないですね。

安藤 出産や育児は1週間や1か月休んだら終わりというものではないですからね。会社の理解が必要ですね。

前島「3か月休んだら職場復帰したいです!」という方もいれば、「私は1年間お休みが欲しいです」という方もいますからね。

安藤 仕事は人生のすべてというよりは一部であり、仕事をすることで人生がより豊かになっていなければ、本末転倒ではないかと思っています。ただし、企業も成果をあげる必要がある。そうしたWin-Winを追求する中で、新しい知恵を生み出す必要があります転勤という制度も本当はどこまでであれば必要なのか、諸外国ではどの程度発生しているのかなど考える時期にきているのではないかと思います。

前島 現在の駐日フランス大使の奥様(注 実際には事実婚)は月に一週間くらい日本で大使夫人としての役割を果たし、残りは自国で仕事をしているそうですね。
ちゃんと上司に交渉してこういう働き方を認めさせたという記事を読みました。文化の違いもあるとは思いますが、主張して、それを会社も認めてくれるのというのは、素晴らしいと思いました。

安藤 やはり自分で与えられるのを待っているだけではなくて、交渉するということは大事なことですよね。交渉は難しいことですから、せめて自分の計画を作っておくことは大切だと思います。

前島 先生の今後の研究テーマについてお聞かせください。

安藤 帰るところは組織だと思っているので、引き続き、組織学習や組織変革に取り組んでいきたいと思いますが、まず近いところでは、女性活躍推進を進める組織が今後どの程度の成果を出すのか、どのようなマネジメントのもとでより効果があるのかということをより深く研究していきたいと思います。
その際にはもちろん、世界との比較が欠かせないので、これから先人に教えを乞いながら勉強したいと思っています。現在、進行中の調査である、男女問わず、望ましいチーム・マネジメントや職場力のあり方についても引き続き、深めていく予定です。

前島 本日はありがとうございました。

安藤 ありがとうございました。

下記からPDF資料をダウンロードいただけます。
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