認定NPO法人フローレンス代表室長
■略歴
1983年生まれ。
妻と2歳の娘と家族三人。
認定NPO法人フローレンスでマーケティング、事業開発に従事。政府・行政に政策を提案、実現するソーシャルアクションも行っている。
フローレンスの仕事を通じて、政府の子供庁の取り組みを議論する有識者会議の委員として参与。社内で議論を詰めて、日常業務として政策提言に絡むことを行う。
現在は、男性の家庭進出を主とした様々な情報を、多くの媒体やインタビューを通じて発信している。社内ではマネージャーとしてメンバーのサポートを行う。
■著書
「パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!」(光文社)
清水:著書『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』を出版されてからのご活動も増えていると思いますが、パパの家庭進出が重要であると感じたきっかけや背景は何でしょうか?
前田:一番のきっかけは、2ヶ月間の育休を取らせてもらったことです。育休Beforeでみえていた景色と、Afterになってからみた社会の景色が全く違っていて、大きなギャップに気付きました。
どうしたら日本は子育てしやすい社会になるのかを考える上で、育休を取らせてもらったことでみえたギャップというのが今の日本の社会課題の根っこになると思い、それからブログに書き留め始めました。すると思った以上の反響があって、本の出版に至りました。
清水:フローレンスにいたから育休を取ろうと思ったのですか?それともはじめから取りたいと思っていたのですか?
前田:はじめから取りたいと思っていました。フローレンスは、男性育休取得率が100%の組織だったので取得は当たり前で、妻の妊娠を報告したら「いつ育休取る?」と相談してもらったほどです。
前田さんの社内でのご様子
清水:取るのが当たり前の組織なので、普通にそうなったということなんですね。
前田:そうですね。一般に企業勤めの方がしているような苦労はなかったです。友人の男性たちは育休が取りづらい企業に勤めている人が多く、本当にラッキーな境遇だったんだなと思います。
清水:著書の中で、一番キーとなる部分はどこですか?
前田:パパが子育ての現場にいないのが、一番大きな違和感だということです。例えば子育ての社会課題として、ネグレクトや児童虐待問題をあげると、母親に焦点が当たりがちですが、「父親はその時どこにいたのか?」を考えてみてほしいのです。つまり、お母さんに家事育児を一手に押し付けてしまっていて、大体お父さんがその場にいないんです。
結局、児童虐待にせよ、産後うつ・少子化・女性の社会進出などにせよ、その問題の根っこには、歪んでしまっている男性の働き方や、家庭のコミットが核にあるんじゃないかということを書いています。
清水:2022年からの男性育休取得促進に関する法改正が行われますが、各企業対応はさまざまです。この法改正に対して感じていることはありますか?
前田:すごく素晴らしい法改正だと思います。
日本の育児制度は、制度自体は世界一素晴らしい制度だとされていたのですが、誰も使わない「猫に小判」状態でした。
それは取得しづらい職場の雰囲気や、男性原理な社会の中で、その会社の倫理規範から外れた行動をとることができないからです。私も前の職場だったら取得する自信はありません。それくらい勇気がいることだと思います。
今回の法改正は、1000人を超える企業に対して、育休の取得状況の公開の義務化と育休の機会を得た当事者に対して、育休を取得させる働きかけまで義務化されています。いかに制度を使ってもらうかにフォーカスした法改正なので、ボトルネックになっている部分への改善を期待したいです。
インタビューでのご様子
清水:男性の育休取得の重要性についてのご見解をお聞かせ下さい。
前田:2つのレイヤーがあると思います。
まず、「家族の幸せ」が一番にあります。
例えば女性の産後うつについて、死因で一番多いのが自殺なのですが、それは支えてくれる家族が近くにいないということが原因です。
核家族化が進行して、これまでコミュニティで行っていた育児を、最近はお母さん一人で育児をすることになり、追い込まれてしまったということが問題です。子供を夫婦2人で育てるのは当たり前で、それが産後うつや孤独など、身近な問題の一番の特効薬だと思います。
二つ目は、女性の社会進出を叫ばれていますが、そもそもキャリアアップする時間がないという問題です。
時間を確保するには、パートナーと分担するしかありません。それをなくして社会進出はできません。女性活躍にはイノベーションや労働力という観点がありますが、少子化や経済成長にもつながってくると思います。
清水:育休前後で会社のメンバーや周囲と、どのようなコミュニケーションをとりましたか?また、育休取得にあたって、工夫したことはありますか?
前田:自分の業務をきちんと引き継ぐこと、自分が居なくても回る仕組みを作っておくことです。育休を取得するまでの時間は長いですから、できることを粛々とやりました。
また、友人と話していて、自信過剰だなと思ったりもしました。別に自分ひとりが会社からいなくなっても、会社は回っていくと思います。一方、家庭では自分がいないと大変なことがたくさんあります。自分を必要としているのは家庭と仕事どっちにあるのか冷静になって考える必要があると思います。
復帰後に自分の居場所があるかという不安も分かりますが、人生の長い時間でずっと同じ場所に居続けることはないことを考えると、仮に収入が一時的に途絶えたとしても問題ないと私は思っています。
清水:私もそう思います。ブランクを気にする人もいますが、それよりも逃してはいけない瞬間と場所があると思います。それでも戻ってきても場所がない、周囲から遅れをとると感じていると思う人が多いのでしょうね。
前田:だからこそ、勇気のある人が取得するというのが大事で、それしか突破する道はないと思います。同時に、取ること自体が社会にとってポジティブなことだと、制度や会社側から働きかけをする必要があると思います。
清水:具体的に不安に思うのは、どういうところですか?
前田:すごく期待してもらっていたり、責任を持って育ててくれた上長の存在があり、育休を取るということは、そういう期待に対しての背信行為のように感じてしまうんです。
また、会社の行動規範に背いて戻ってきて閑職に回されて、それで、お給料が減れば家族に対して大変な期待を裏切ることになるし、ひいては自分の父親としての価値としても難しくなってしまいます。
お給料や社会的地位というのが、自分自身の責任というものと強く結びついていていて、「父親として家族の役に立っているのか?」が危うくなってしまうという現状があり、男性にとってハードルが高いと思います。
清水:そういう空気感を変えていくために、会社側からしかるべき取り組みを進めなければとと強く感じますね。
前田:それでも勇気ある人は取ってくれていて、そういう人達が企業のファーストペンギンになり、そこから変わっていくんだと思います。勇気ある行動をされている方を尊敬していますし、そういう人達が真の意味で社会を変えていると思います。
清水:今の日本において、男性が家庭進出をするにあたりネックになっていることは何だと思いますか?
前田:複雑な要素が絡み合っていると思っています。
1つは社会や会社の空気があります。会社が変わったとしても世の中の男性が一気に育休を取るのかといえば、男性も、女性もかなり考え方の変化を迫られると思っています。
そもそも家計の所得を主に支えているのが、日本は98%が男性です。しかし、東南アジアでは女性の20~30%が男性よりも多く稼いでいます。
これは、日本が女性に家事育児を一手に担わせてきたという背景があります。これから変化を起こそうとするならば、女性側の主体的な変化というのが必要になると思います。つまり、本気で女性の社会進出と言うんだったら、女性の方が稼いでいた方が便利なんです。
女性がキャリアを重ね、男性の方が所得が低い場合には、男性が支えてもらえる確率が高くなりますが、現状日本の家庭ではそうなっていません。「支えてもらえる」という女性側の意識の変化も絶対に必要で、社会・男性・女性という全てのステークホルダーの考え方の変化が必要だと思います。
ご自宅でのご様子
清水:男性育休をこれから取得したいと考えている当事者、その周囲にいる人たちに向けてメッセージをお願いします。
前田:自分と自分の家族がどうしたいのかを、問う機会になったらいいなと思います。
「男性は育休を取るべき」と言われていますが、絶対に取らなくてはいけないわけではなく、無理して取らなくてもいいと思います。しかし、「本当は取りたい」またはパートナーが「取ってもらいたい」と思っているのに、それがかなわないということは問題です。そこで、「どうしたい?」と夫婦で向き合って話し合った方が、より充実しますし、幸福だと思います。
人生100年時代ですから、目の前の会社の人事というのは100年というスパンでは些末な問題です。しかし、当事者としては、そこが視野が狭まって見えなくなっています。そんな時は、ちょっと引いてみて下さい。ぜひ、きっかけにしてもらえたら嬉しく思いますし、そうなったら社会が変わって、日本も良い国になっていくと思います。みんなで頑張りましょう。
清水:私もそう思います。率直なお答えをいただきありがとうございました。
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