産業能率大学 情報マネジメント学部 准教授
東京大学大学院人文社会系研究科、同大学院学際情報学府、
株式会社日本総合研究所、東京大学大学院情報学環助教、
一橋大学社会学研究科特任講師を経て2010年より現職。博士(学際情報学)。
大学生や企業で働く人のための学習環境のデザイン、キャリア開発に関する調査、研究を行っている。
共著に『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社)、『キャリア教育論』(慶應義塾大学出版会)がある。
■社内よりも社外での学びがより良い影響を与える
前島:これまでのご研究についてお伺いできますか。
荒木淳子さん(以下敬称略):もともとは「働くこと・キャリア全般」が研究対象です。企業におけるキャリア開発研究は、それまでも多く存在していましたが、「社外との関わりも大事なんじゃないかな」と思い始めたのがきっかけです。当時、コンサルティング会社で働いていたので、専門職の方々にアンケートを実施する機会がありました。コンサルや金融、研究開発の方が対象ですね。そこで、社外で実施されている勉強会や他業種との交流がキャリア開発の上で良い学びになっていることが分かりました。
そのときにこれから先は専門職に限らず、ずっと会社だけでキャリア形成していくという人は少なくなるんだろうなと感じました。「家庭と仕事」、「地域と仕事」、「社内と社外」など。職種が変わる、組織が変わることも含めて、複数の領域を移動していくんですよね。そうやって社内だけではなく、複数の領域を横断しながらどのようにキャリアをつくっていくのか知りたいと思ったのがきっかけですね。
前島:キャリア形成は一昔前までは社内で完結していましたよね。キャリアというより昇進昇格のイメージですね。それが異業種交流が生まれてからは、交流から考えが派生し深まり、大事になってきたんでしょうね。
荒木:そうですね。会社員として働いている人は、言われた仕事をしているだけではありません。意識的に自分のポジションや強みをつくっていく必要が出てきていますよね。会社で働いたことがある人には実感があると思います。例えば、専門職の人だと、担当業務の専門性を高めるだけでなく、自分のアイデンティティやポジショニングを社内の仕事で作っていく必要があります。自分なりの強みや良さを発揮して職場に貢献する。それから自主的に社内各所に情報を取りにいきキャリアをつくっていかなければならない。
前島:今は、それらはもはや特別なことではないでしょうね。専門職に限らず、働く人全員がそうやって動き始めている時代になったような気がしますよね。
荒木:そうですね。情報入手やポジショニング獲得をうまくできる人は当然いるんですけど、なかなかうまくいかない人もいるんですよね。一人だと困難なことがあるのであれば、そういう人を支援する機会も見い出していきたいと思っています。
■ワーキングマザーの“組織社会化”
前島:キャリア開発全般に限らず、ある時から女性活躍にベクトルを向けていったわけですね。
荒木:先輩から女性も対象にしたらいいと声をかけていただいたのがきっかけです。あとは、実生活の経験も活きるかなと思って。実は、研究にはあえて“女性”を出さないようにと思っていたんですよ。
前島:そうですか。ちなみに、研究者の方の仕事は実績ベースで良い意味で男女の違いがないように感じています。それが、一般企業となると、なぜそんなに男女間で仕事環境などに違いがあるのか、研究していて不思議に感じませんでしたか。
荒木:そうですね。あからさまな差別というのは少なくなっていると思うのですが、女性のほうが個人として組織に適応していく戦術がけっこう必要とされる気がします。それを組織が支える仕組みがないと、辛いなと感じてしまうこともあると思います。私の研究では、どちらかというと、男女平等の世界で仕事をしている女性を対象としています。そのなかでも、出産後働き続ける女性、いわゆるワーキングマザーを対象としていることが多いです。それでも、ワーキングマザーばかりが複数の領域を横断して活動し、多くを背負わなければならない局面がまだまだあります。個人がそれらをどうやって乗り越えていくかとともに、組織がどうやって支援すべきかを明らかにしていきたかったんです。
前島:「領域」という用語は新鮮でした。単純に「公私」という分け方とは違う気がします。「領域」だと分けているというよりは、時に応じてくるくると活動の場を切り替えて生活している感じですよね。
荒木:そうですね。紹介いただいたアメリカの研究で「Becoming a working mother(ワーキングマザーになる)」論文があります。そこでは、専門職の女性が出産すると「職業アイデンティティ」にプラスして「母親アイデンティティ」を抱えていくことになると分析されていました。そして母親になった後どうやって組織に馴染んで組織社会化していくのか、という過程の分析があったんです。企業にとってみるとただ子どもを産んで戻ってきただけだと思うんですけど、本人からすると出産前と後では、立場もアイデンティティも変化しています。この研究では、女性は不安の中、職場に戻ってどう適応し、どうやってうまく再組織社会化するかという過程を分析しています。分析された過程をみると、最初は現状を受け入れて優先順位をつけ、プライオリティ順に仕事をしていくとか、先輩モデルを見て真似をしてやっていくとか。あとは職場と上司の理解があるなど、そういうことが効いていたと書かれていました。
前島:そのとおりですね。
荒木:このアメリカの研究者がワーキングマザーは複数の領域を行き来してキャリアを作っていくと書いていたんです。なるほどと思いましたね。今後はそれが女性だけでなく、介護などで男女問わず迫られてきます。今子育て中の女性が直面している課題は、今後誰しもが直面せざるを得ない課題ということになるのではと。
前島:ワーキングマザーの立場から言うと、分断しているわけではないんですよね。子育ては多くの方にとって初めての経験です。それでいて今の社会だと、実家が遠く頼る相手がいないと、どうしたらいいか分からないということも生じます。そんな時に新たな自分の一面が開発されるんでしょうね。それを備えると別の自分になるような、改めて組織社会化する(組織になじんでいく)というのは実感的にもよくわかりますね。新卒入社時と環境は変わらないのに、自分のほうは子どもを産んで変わってきているという。
荒木:そうですね。新しい組織社会化が必要です。周りの見る目も変わりますよね。逆に見る目が全く変わらないのも辛かったりするんです。
前島:こっちは変わったのにって。
荒木:そうなんです。子どもを産んだあとの新しいステージに本人がどう適応していくかも、女性活躍の分野では留意していく必要があると感じています。
前島:子どもを産んで働き続ける女性が、組織社会化のステップをうまく押さえられると安定して仕事も続けられるのでしょうね。ただそれらはなかなかうまく運ばない。個々人の事情によって続けられなくなったり、環境が苦しい中で続けざるをえないという残念な状況もありそうです。
■女性個々のキャリア形成と会社の育成方針のいびつな関わり
前島:女性がキャリアを積んでいくことについてはどうでしょうか。
荒木:ある程度仕事をしていきたい、今回で言うキャリアを積んでいきたい場合は、葛藤を抱えながら個人でやりくりすることが多い気がしています。会社がどう支援するかも難しいところはありますが、見かけのワークライフバランスは達成できると思います。見かけというのは出産後の時短勤務制度の導入や保育施設に預けるというところですね。ただ、見かけのワークライフバランスが達成したとしても、その先に、その女性本人がどんなふうに仕事をして活躍するかというキャリア展望を考えるとまだまだ課題はあると思っています。
前島:今は政府が出した数値目標に対して、数字合わせありきの人材育成という部分もあります。それぞれが望むような、本人のためのキャリア形成支援はまだまだこれからなんでしょうね。
荒木:会社はただ個人を雇用し続けるのではなく、仕事単位で個人を見ていくべきです。「会社はこういうことを期待しています。あなたはどうしたいですか」と。そういう意味で、個人の仕事をはっきりさせることが必要だと感じています。管理職の研究を調べると、女性の昇進意欲は入社後からでも醸成できると言われています。それには入社して数年間にどんな難しい仕事をしてやり甲斐を感じたかが重要になります。やり遂げたという達成感があると、出産後や何かあった時にでも働いていこうという意欲が芽生えます。意欲がないと続かない。あまりそういう経験がないまま、出産して戻ってきても、いきなりキャリアアップへの意欲は考えづらいようです。管理職になれと言われても、時すでに遅しという感じです。入社時から育てていくことが必要ですね。
前島:キャリア研修は昔からやっていましたよね。男女問わずこの会社でどう成長していけばいいかというような。今も会社としてはその前提ですけど、自分で考えないとダメだよ、とも言われ始めてきています。どこまで本人に考えさせるかは課題かもしれません。考えてほしいと言われてもどうしていいかわからない部分がある。これらは女性だけじゃないですが。
荒木:ただ、男性はマジョリティです。知らず知らず仕事に巻き込まれて、いろんな考えを持てる機会があります。女性は過度に配慮され流れに巻き込まれにくいのかなと。女性は意識的に仕事に入っていかないと自然なキャリア形成がされ辛い状況があるのではないかという見解です。
■子育て中の部下への配慮。実は必要ない?
前島:ワーキングマザーとそのマネジメントの研究もされてらっしゃるんですよね。子育て中は本人も上司も大変な領域です。おもんばかってもらうことが、良かれと思われることばかりではない、というのはよく分かります。
荒木:そうですね。気を遣わずにバンバン仕事を振る上司よりは、転勤や出張などを配慮する上司が多いと思います。それが本当に必要かどうかを確かめたい。上司の人はこうしたコミュニケーション含め、仕事が増えて大変だと思います。研究を始めたきっかけとしては、上司の方に「もっとやって」と言うのではなく、うまくやっていける方法を整理したいと感じたからです。
アンケートを2種類とりました。ひとつは、子育て中のフルタイムで働く女性に向けたものです。組織でのキャリア展望が高い傾向にある人は、上司が意識的に関わっていることが分かりました。意識的な関わりというのは、例えば仕事スキルの向上と育成に熱心に取り組んでくれるとか、仕事の進め方について良い点悪い点を説明してくれるなどですね。配慮的なことはキャリア展望には効いていなかった。女性管理職の育成には配慮するばかりではなく、きちんと育成する姿勢が必要だと思っています。
前島:女性管理職を増やしていきたい企業にとってはとても効果的な情報ですね。
荒木:そうですよね。もうひとつのアンケートは、ワークファミリーエンリッチメント(仕事と家庭の相互充実)についてです。仕事と家庭、この両方の循環を効果的に考えるか、それとも否定的に考えるかという尺度です。アンケートでは「仕事をしていることで家でも魅力的な人間になることができる」「仕事でのストレスがあるために、家でイライラする」など、仕事と家庭との関係性測っています。結果では、ある程度上司が協力していると、女性部下の否定的な指標は下がる、という内容でした。具体的には、女性部下が上司からの信頼や権限委譲があると感じていると、仕事と家庭の両方で肯定的な感情が見受けられ、バランスもよいということでした。ワークライフバランスという観点からでは、配慮がないと否定的な感情が高まってしまう。配慮が必要ない、ということではないんです。
前島:配慮については、現場でのマネジメントも手探り状態なのかなと。ただ、長期的に仕事を任せることを考えると、誰でもできる仕事よりも、具合を見て任せたほうが本人の満足度は高まりますよね。
荒木:そうですね。上司に信頼されていると思うことでワークライフバランスの肯定的な感情は高まります。上司への信頼感は、キャリア展望を高め、それがワークライフバランスに色濃く現れているんですよね。仕事の割り振りは上司だけではできないこともありますから、その点では働き方全体を変えていかないといけないと思います。
■これが一番難しい!? 上司に求められている信頼と期待の声かけ
前島:上司の信頼もいろいろあると思います。信頼とは具体的にはどういうことでしょうか。
荒木:アンケートでは「業務の進め方を任せてくれる」「業務遂行上必要な権限を与えてくれる」というようなところが信頼の具体的な内容でした。例えば、在宅ワークを導入している企業で、本当に働いているか見えないからリモート監視している、ということではなく、在宅ワークのアウトプットで判断してもらったほうが気持ちが良いというような、そういう運用面やちょっとしたところにも信頼感はあるのかなと思っています。
前島:個人的には、能力を信頼して任せてくれる、というのは信頼感が大きいと思います。出産前の経験業務はできるけれど、こなせるかどうかは違う問題と考えている部下に対して、敢えてポンっとそれでもやってみてと仕事を任されると、まだまだできるんだと思える。組織社会化の話で言うと、新しい自分もなんとか上手くやれるんだ、と実感できると思うんです。
荒木:そうですね。量は限られていても質の面ではそれなりにできる。不安を抱えて戻った女性にはやり甲斐が増していくんでしょうね。
前島:あとは、キャリア上は年数は増えているわけですから「前にやっていた仕事プラスアルファが出来ていないと困るよね」という声かけはあっていいと思います。ただ、あまり色をつけずにすっと声かけをしてほしいですね。それで本人が「自分はもっと頑張らないといけないし、できると思われているんだ」と気づけると良い方向に向かうと思います。あとは、上司の方に望みすぎかもしれませんけど、万一女性側が難しいと言ってきたとしても、常に「できる」という声かけフォローが上手くとれるとベストなのかなと。
荒木:昨年度実施したワークショップの成果物では、上司が期待して仕事を任せてくれるのはいいが、応えられないと悩んでいる人と、そういう期待を感じられずに仕事をしている人では、未来に向けたメッセージが違っていました。期待に応えられないと悩んでいる人は、子どもに向けたメッセージとキャリアへのポジティブな思いがありましたが、後者の期待を感じられない人は、子どもへのメッセージのみで、キャリアの面があまり出てきませんでした。信頼感があると将来の展望が描けるんだなと思いました。
前島:信頼感は会社にとってもプラスの方向に働いていきますね。しかしながら、上司の方の配慮の方向性が誤ってしまうと残念な結果に向かってしまう、というふうに捉えることもできますよね。
荒木:育児の大変さと仕事の大変さはバランスしていると思います。多少困難なことがあっても、期待が大きいと頑張れる。期待が小さいと大変感が上回って離職につながる。ただ、期待が大きいから辛くても頑張れというのも限界がきているので難しいところです。やらせ過ぎるのもよくないですよね。
前島:本当です。
荒木:この仕事はあなたにやってもらいたい、という振り分け方のほうがいいと思います。
前島:時間で勝負できないですからね。もはやそういう時代でもないし。高い品質を期待され求められたほうがいいでしょう。
荒木:上司が部下全員にそれらを実施するのはとても大変だと思います。話は最初に戻りますが、会社が各社員に何を期待し、何をしてほしいのかを明確にすることが、必要になってくると思います。
■キャリア形成思考の前倒しを
前島:それで言うと、本人がどうしたいのか分かっていないケースもある。働き続けていくうちに事情が変わっていくこともありますが、「考えたけれど分からない」と言われると上司も困りますよね。ゆるいキャリア意識研修というか、そういうのも大事なのかなと思います。
荒木:出産前後に限らず、若い頃からあるといいですね。定着を前提にすると、長期的な研修で意識開発をしていくのは必要ですね。
前島:採用をするということは定着を前提に投資しているはずですから、良いタイミングでキャリアを考えてもらえるよう、ぜひ企業側にはお伝えしていきたいですね。
荒木;はい。あとは大学生の意識も、変わってきています。男女関係なく、長く働き続けたい人は増えている。長く働ける会社を探しているんですよね。
長期的な育成プランを整えた上で、節目々々で上司がうまくマネジメントしていくことができれば、女性管理職の数値目標達成もそこまで難しくないんじゃないですかね。
■男女ではなく個々の違いと向き合った働き方改革
前島:修羅場経験を与えられた方とそうでない方のことを仰ってましたが、その観点でいうと女性には不向きだと思われている業界や職種があります。とはいえ女性の採用は行われていて、生産や深夜勤務がある現場などに、実際に女性を配属するのは無理だろう、という迷いがあると、キャリアの積み重ねがうまくいかないという悩みも聞きます。
荒木:建設現場の方に話を聞くと受け入れる側も大変だと聞きました。本当は、男女よりは個人によるんでしょうけどね。やりたいかやりたくないか、です。現場でバリバリやりたい女性もいますから。迷っているとしたらその部分で背中を押す必要がある。聞いてみたら頑張りたい人はいる気がします。個別にコミュニケーションをとっていくのがいいのではないかと思います。
前島:そういう現場だと分かって入社しているはずですからね。ある企業で聞いた話ですが、大きい案件は女性でなく男性に担当が割り振られてしまうそうです。一方でマネジャーに話をきくと、育成という面では男性に投資したほうがいいという本音も出る。荒木先生のおっしゃった通りで「だから(女性が)辞めるんですよ」と思います。この先家庭を持つかは分からなくても、ずっと働き続けると思って育成してほしいですよね。
荒木:優秀な女性でしたら残ってもらったほうが絶対いいですからね。仕事内容も少しずつ変わっていく可能性はありますよね。ソフトウェア開発の女性に話を最近聞いたら、ちょっと前までは夜中まで残業していたけれど、最近は残業が少なくなってきたと言っていました。効率化が進んでいるんですよね。工夫の余地はあります。転勤だって必要な転勤なのかと、そういう改革もしていく。必要な改革を見定めていってほしいです。
前島:各社あちこちで、働き方改革を考えていく時が来ているわけですよね。
荒木:はい。量を減らすではなく、働き方を変えることで、個人をどれだけ活躍させるかについてもっと考えていくべきだと思います。
前島:個人がモチベーション高くどれだけパフォーマンスを発揮していくか、ということですね。
荒木:例えばAIが職務と個人をマッチングするようになるとか。そうやってお互いの能力を可視化できるようにしておくことも必要だと思います。上司一人の能力でアサインできることには限りがありますから。能力を明確化しマッチングは他に任せる、その上で、上司と部下の信頼関係を築いていくことが良いのではないかと思っています。
前島:そうですね。タレントマネジメントみたいな部分をもうちょっとうまくできるようにと。日本の会社はそこが進んでいないイメージがあります。
荒木:少し話はそれますが、チームで業務を進める場合、個人の職域が明確になっていないからこそできる部分もあって、それが良い面でもあるんですよね。ただ、個人のキャリアを考えていくと、お互いに何ができて何をしたいのか明確にすることが必要で、会社はそれらをみてアサインしてくことが求められていくんでしょうね。
前島:そうすると、必然的にキャリア形成思考も本人に求められていきそうですね。ワーキングマザーも仕事を続けていくことが普通になってくると、もっと積極的に考えていくようになるとは思います。
荒木:今は復職するだけで頑張っていてすごいみたいなところもありますが、それが普通になると、次のステップへ自然といけるのではないでしょうか。
前島:今は復帰が精一杯という社会インフラ状態ですからね。今の学生、そして今後は両親ともに働いている子どもたちが増えていくので、キャリアを考えやすい世代になっていくかもしれません。
■マネジャー個人に任せたい仕事範囲とは何か
前島:マネジャーの方に負荷がかかっている現状は大いにあります。研修の側面でも「マネジャーの役割が大事」というのはいたるところで言われています。ただ、みなさん具体的にはどうしたらいいか分からず困っている…。
荒木:組織的な仕組みを変えることも大事ですよね。マネジャー個人の属性だけではなく、職場の属性も見ていかないといけない。職場がどういう仕事の仕方をさせているのか、チーム制なのか、本人に任せている自立型なのか、そういうところを細かくみていく必要があると思っています。
前島:マネジャーの仕事が最小限の負荷でまわっているのか、みたいなことを見ていくということでしょうか。
荒木:そうです。個人の能力をみてアサインするにしても、しやすい職場もあればそもそも全員が同じ仕事にアサインしづらいところもあると思うんですよね。
前島:そうですね。職場の属性ごとにマネジメントのポイントが分かるといいですね。
荒木:現場の声を聞いていると、悩むケースがばらばらになってきている印象です。それらを一緒くたに任され、マネジャーは大変だなと感じています。そんな中でも、女性部下やワーキングマザーとの関わり方のコツも少しずつつかんできているようにも思います。ただ次に、彼女たちをどう支援したら良いかが難しい。そこは上司の方の意識改革だけではできないので、職場の働き方や仕組みを変えていくことが必要です。
前島:研究の視点として、上司の仕事が楽になるように、というのは素晴らしいですよね。そのうち上司側も女性が占める割合が高くなる時代も来ますし、どんどん変化していきますね。
■女性管理職のさらなる能力発揮に向けて
荒木:次に研究ができるとしたら、テーマは女性の管理職ですね。リーダーシップ研修を受けて職場に戻った後の状況を分析研究したいと思っています。意欲を持って職場に戻っても、うまくいっていない女性もいるようなので。逆に活躍している方は、どんな職場でどんな同僚がいてどういう仕組みで、と細かくみていきたいですね。上司の能力以外にも何かヒントがあるのではないかと思っています。
前島:役職が上がってくると男女差を考えないで配属するという経営陣も多いようですが、その点はいかがでしょうか。
荒木:女性マネジャーを受け入れる職場側にいろいろあるようです。職場側が女性ってこうだよね、そんなことしなくていいよね、ということに巻き込まれていってしまう。ジェンダーギャップというよりは環境や同僚上司の意識で変わるのではないかと思っています。一方で女性でも活躍している方もいる、この違いがわかるといいですね。
前島:そうですね。ご本人の意欲や素養は男女違いなく変わらなかったはずなのに、マネジャーとしての活躍度合いに違いが出てくるというのは興味深いですね。また、弊社で開発したダイバーシティ組織診断では、自分から知ってほしい情報を積極的に開示していくことをした方が望ましい、という内容を含んでいたりします。上司だけがコミュニケーションを図るのではなくということです。そうすると横同士の連携も生まれますし。
荒木:そうですよね。仕事上で一番大切な関わりは同僚、というアンケート結果も出ています。
前島:同僚が頼りになるというのは実務的なこともあるかもしれませんね。
荒木:はい。上司一人が頑張るというよりは、メンバーもメンバーとしてのふるまい方を学んでいかないと回らない。
前島:キャリアを自律的に考えていくと当然必要ですよね。あとは、上司に対してのアピールという点でも、必要になっていくのでしょうね。
荒木:良い部下になるためにも。
前島:本日は興味深いお話が聞けました、ありがとうございました。
荒木:ありがとうございました。