JSR株式会社 様
※本事例は、前身であるWisH株式会社にて実施したものです。
肩書等は記事公開当時のものとなります。
半導体材料やディスプレイ材料、バイオプロセス材料やバイオ医薬品の創薬支援サービス、そして合成樹脂など、精緻を極めたテクノロジーで科学の進歩と実用化を推進しているJSR株式会社。1990年代から育休と介護を中心とした両立支援の制度を始め、2015年にはダイバーシティ推進室が発足し、長期的な人材育成の企画運営面まで拡充。
その間、2010年に、ダイバーシティ推進を重要な経営課題として位置づけ、向こう5年間のロードマップを示した際、まずは女性の活躍を第一優先とし、女性活躍関連のセミナーを実施することに至る。
受講生は概ねポジティブな変化を感じ、受講生自身が主体的にダイバーシティ推進について意見を出す声が大きくなっていったとのこと。
そういった受講生の変化を受け、女性活躍推進だけではなくダイバーシティ&インクルーションのあり方を次のステージに上げる必要性を感じるなど、取り組みの次なる進化を迎えた。
インタビューでは30年に渡るダイバーシティ推進への姿勢や変化を感じることができ、長期的醸成のヒントがつかめる内容となっています。
取り組みに至る
背景・きっかけ
制度拡充とマインド面の課題解決の両輪を回すために
添田
本日はよろしくお願い致します。
まずは、お取り組みのきっかけをお聞かせください。
JSRでは1990年代、世の中でも女性活躍がうたわれた頃から、一般職から総合職にコース転換できる制度、短時間勤務制度、在宅勤務制度など、育児と介護を中心とした両立支援を実施してきました。2007年に初めて男性が育休を取り、くるみんマークを取得しました。制度面では、おそらく先進的だったのではないかと思います。ライフイベントを越えても働きやすい会社になりつつありました。一方で、女性社員の処遇面やキャリアアップに繋がる業務経験の機会はまだ限定的で、現状に安住しがちなマインド面など新たな課題がありました。
ダイバーシティ推進においては、制度面に加え長期的に人材育成をするために、研修施策の企画など、運営面を拡充することに取り組んできました。
2010年には、ダイバーシティ推進を重要な経営課題として位置づけ、トップメッセージを発信し、向こう5年間のロードマップを示しました。とはいえ、一気に全方位のダイバーシティ推進は難しいため、優先順位としてマイノリティの中では人数が多い女性の活躍の場をさらに広げる趣旨で、「女性社員と管理職のペアセミナー」や「総合職転換者向けセミナー」などの実施に至りました。
奥山
添田
まずは制度面の拡充を進め、ライフイベントを超えても働きやすい会社を目指されたのですね。しかし、制度を背にマインド面で新たな課題があり、人材育成の支援に力を入れられ、優先順位をつけながら取り組まれたとのこと。
他社を参考にできるほどまだ事例も少ない中、先進的に取り組まれていたからこその苦悩や姿勢を感じることができ、とても参考になります。
特に、これからダイバーシティ推進を取り組む企業では、何から着手したら良いのかわからない担当者様が多いのですが、その点、JSR様は優先順位をつけて指向性のある取り組みから始められた点は、とても貴重なお話だと感じました。
検討プロセス・実行施策
試行錯誤しながら施策を拡大
添田
WisHでは現在、「総合職転換者向けセミナー」「女性主事キャリア開発セミナー」「管理職向けコミュニケーションセミナー」「現場のコミュニケーションセミナー」をご支援させていただいております。なぜこの施策を取り組むに至ったのでしょうか。
2010年当時、次の4つの軸でダイバーシティ推進の施策を検討していました。
①各人が会社に貢献するための機会の提供や、処遇面を公平公正にすること
②①で広がった機会や充実した支援を前提に、各人のキャリア開発を支援すること
③長時間勤務を前提とした画一的な働き方の見直し
④そのために必要な多様性を受け入れる風土づくり
施策を具体化していくなかで、女性社員だけではなく、その上司にもダイバーシティの重要性を理解してほしいという観点から、2010年に「女性社員と管理職のペアセミナー」を実施しました。また、一般職から総合職へ転換したが意識が変わらない、職域が変わらないなどの課題があり、総合職転換後の育成を目的として「総合職転換者向けセミナー」を実施しました。これは、10年経った今でも、内容を進化させながら続けています。加えて2011年からは、「管理職向けコミュニケーションセミナー」を実施しており、管理職が、女性部下を始めとした多様な部下を持つ中での悩みを知り、育成の仕方を学んでもらう趣旨で取り組んでいます。
一般職向けのセミナーも実施し、一般職としての視野拡大やキャリアをどのように考えるべきか、会社のメッセージと併せて伝えてきました。
さらに2016年からは、管理職一歩手前の女性社員向けに「女性主事キャリア開発セミナー」を実施しています。社外にも視野を広げ、意識を高めてほしいという趣旨から、他社の女性社員を招き、ディスカッションをメインとしたセミナーを企画しました。
2020年には、製造現場への女性社員の配属をきっかけに、どのようなコミュニケーションや対応が必要なのかを知る趣旨で「現場のコミュニケーションセミナー」を行うなど、対象範囲を広げながら取り組んでいます。
奥山
添田
ダイバーシティ推進の施策を検討する上で、まず軸を定められた点は、長期的な経験を持つJSR様ならではと感じました。特に組織だけでなく、個人までしっかり落とし込み、許容される働き方から受け入れられる風土づくりまで組み込まれており素晴らしいと思いました。
D&Iを実現する上で「一人一人の意識が変わること」、「多様な働き方を許容し活かす制度や仕組み」、「成長しあえる風土」は私共も重要だと考えております。
WisHを選んだ理由
目的に沿った講師の重要性
添田
当初の研修や新しく施策をご検討されている中で、なぜWisHを選んでいただけたのでしょうか。
WisHさんとの関わりの始まりは、前任担当者が2013年の藤井講師のセミナーに参加したことがきっかけです。上司側は、女性部下の育成方法が分からないという課題を抱えており、その打ち手の1つとして「管理職向けコミュニケーションセミナー」を藤井講師へ依頼しました。研修は具体例があり分かりやすく、受講した管理職からは熱意が伝わると評判が良かったです。また、女性社員のロールモデルにもなっています。受講者の満足度が高く、他の研修でもご登壇頂くようになりました。
奥山
藤井講師は、管理職目線、女性社員目線の双方の視点があり、かつ、1歩目のコミュニケーションのとり方からキャリア形成に至るまで、お伝えいただける内容が幅広いことが、他の研修にも展開できた理由と思います。私自身も2016年に「女性主事キャリア開発セミナー」に受講者側として参加しましたが、受け身ではなく主体的にキャリアを考えるための仕組みづくりをしていただいていると感じています。また、上司向けには部下の育成に対する気付きを与えてくださっていると感じます。
馬場
そうですね。受講者の声も踏まえて研修内容の見直しも必要となりますが、WisHさんには講師と連携しながら、目的に応じて柔軟に対応していただける点においても非常に助かっています。
奥山
添田
ありがとうございます。弊社は自社メンバーだけではなく、様々な分野で成果を収めた「パートナー講師」と共にプロジェクトを進めるのですが、組織の課題・バックグラウンドに合うだけでなく、人柄は合うか、共感を呼べるか、組織が変化するために必要か、といったことまで含めて選定します。
今回はきっかけがあったことで講師の選定をすることはありませんでしたが、その場合でも状況に合わせて柔軟に研修設計できる点は強みだと思っております。
職場での変化・今後の取り組みについて
認識不足が解消され受講生も上司もポジティブな変化へ
添田
受講生や周囲に変化はありましたか?
定点観測としては、受講者や周囲の変化を引き続き見ていきたいというのが率直なところです。
馬場
これまでのセミナーのアンケート結果は概ね好評で、「女性主事キャリア開発セミナー」「総合職転換者セミナー」「一般職セミナー」の受講者からは「キャリア意識に対する変化の必要性を感じた」「自分の特性(強み/弱み)が理解できた」「横の繋がりができ安心した」といった声が挙がっていました。受講者の上司からは、「説明が論理的になった」「前向きで主体性を持って取り組めるようになった」「上司の期待を理解したようだ」と概ねポジティブな変化を感じてもらえました。
「管理職向けコミュニケーションセミナー」では、上司自身も「女性部下への接し方、配慮すべきこと、配慮しないことなどがわかった」という声が挙がっています。
ちなみに、私自身もかつて上司の立場でこのセミナーを受講したことがあります。女性なのに女性のことを今さら学ぶの?と思いながら渋々受講しましたが、男性上司はそもそも女性部下への接し方がわからないのだな、ということを初めて知り、違った意味での認識不足を感じました。
奥山
添田
キャリアを考える上では、当事者だけで取り組むのではなく、周囲、主に上司の支援・理解をしていただくことが重要なのですが、受講生も上司の方もポジティブな変化があってとても素晴らしいと思いました。
今後の取り組みについてどのように考えていますか?
女性活躍推進中心からダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンへ
最優先として進めてきた女性活躍推進だけではなく、本来のダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンとして多様な人材に活躍し続けてもらえるような会社にしていきたいと思っています。
現在実施している研修においても、内容を踏襲する部分と、思い切って変えていくべき部分の両方があるでしょう。
年々、受講している管理職側からも、「ダイバーシティは女性活躍だけではないだろう!」という声が大きくなってきました。女性活躍推進だけでなく、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンのあり方を次のステージに上げる時期が来ていると感じています。
とはいえ、2010年時、2%であった女性管理職比率は、2021年現在では未だ4.5%です。今後も真摯な取り組みが必要です。実は、ダイバーシティ推進室という組織が発足したのは、この10年の取り組みのちょうど真ん中である2015年です。その後、2017年から当室では、「ワークスタイルイノベーション活動」という働き方改革を推進する取り組みに注力しています。
会社と社員が共に競争力を上げ持続的に成長するには、変革と工夫を重ねながら労働生産性を高めることが必要です。特に2020年の新型コロナの影響は大きく、働き方の常識がガラッと変わる契機になりました。これを一過性のものではなく、今後も働き方をドラスティックに変え続けて競争力を上げていきたいと思っています。
私自身は、ワークスタイルを大きく革新した結果として、女性社員をはじめとした多様な人材が、多様なポジションで活躍している状態になると良いなと考えています。
奥山
添田
担当者の皆さんが社会変化に応じて細やかに対応しており、常に会社全体の競争力や労働生産性を考えて課題を見つけ出し、的確な施策を打ってらっしゃる様子が印象的でした。
ダイバーシティ&インクルージョン、その先のエクイティも含めて実現されたいという強い意志を感じられました。
担当者としての
考え、思い
個の多様性を尊重し、活躍できる機会を増やしていく
添田
最後にご担当者としての思いをお伺いしたいと思います。
この10年を振り返り社会の動きを見ていると、会社と社員の関係も変わってきていて、今後その変化がより加速していくと考えます。
ダイバーシティ推進やワークスタイルイノベーションへの取り組みに直接的な関わりが少なかった社員にも、今後どのように自身のキャリアや働き方を考えて会社に貢献していく必要があるのか、といったことを考える機会を提供できればと思います。
激動の世の中で、多様性を尊重しながら個々の能力を集結して企業として成果を出し、社員も会社も価値ある存在として持続可能であり続けたいなと思っています。
奥山
これまではダイバーシティの中でもジェンダーにフォーカスして活動を行ってきましたが、これからはジェンダーだけでない個の多様性を尊重し、活かしていけるような活動に進化させたいと思っています。
また、ワークスタイルイノベーションの達成のためには、社員一人ひとりが持つ働きがいを大切に、エンゲージメントを高めていきたいと思います。エンゲージメントが高まれば、多様な人材がそれぞれに当事者意識を持ち、貪欲にチャレンジできる会社になり、これがひいてはワークスタイルイノベーションの目的達成に繋がるものだと思っています。
馬場
担当プロデューサーの声
弊社としては、2013年以降からご一緒させていただいておりますが、私個人としては、2019年から様々なセミナーでご一緒しております。
その中でも、特に印象を受けたのが「総合職転換者セミナー」での出来事です。
総合職転換者セミナーで上司からの手紙をもらうパートがあります。日頃一緒に仕事をしている上司の皆さんからの、あたたかい言葉や期待をもらったことで嬉しそうにされる方・涙ぐまれている方・お顔が晴れやかになっている方様々なご様子を拝見しました。
忙しく過ぎる日々の仕事の中でも、一度立ち止まって自分自身のことを考える時間が非常に重要だと感じます。
今後は、ダイバーシティ推進のお取り組みを加速させ、今以上に個の多様性に向けてお取り組みを進められると伺いました。加速するお取り組みを形づくるご担当者様の皆さんにお役立ちができるよう引き続き、ご一緒できたらと考えております。
お忙しい中、インタビューのご協力をいただき、誠にありがとうございました。