Case 導入事例

CASE.2
Diversity and Inclusionの組織を目指して〜コニカミノルタの挑戦〜
コニカミノルタ株式会社 様
Client :
コニカミノルタ株式会社

設立:1936年12月22日
資本金:37,519百万円
従業員数:単体/5,770名 連結/43,979名 (2017年3月現在)
事業内容:オフィス事業/プロフェッショナルプリント事業/ヘルスケア事業/産業用材料・機器事業
HP:https://www.konicaminolta.com/jp-ja/index.html

入山 章栄氏
早稲田大学ビジネススクール准教授
慶応義塾大学経済学部卒、同大学院経済学研究科修士課程終了。三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より、Ph.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。

岩本 満美氏
コニカミノルタ株式会社 ダイバーシティ推進室 室長

池照 佳代氏
有限会社アイズプラス 代表取締役

※本事例は、前身であるWisH株式会社にて実施したものです。
 肩書等は記事公開当時のものとなります。

2017年4月、社長直轄組織として「ダイバーシティ推進室」を設立したコニカミノルタ社
ダイバーシティを社内に浸透させるべく、組織長を筆頭に、管理職、メンバークラスとワークショップ・職場での取り組みを展開しています。(現在も継続中)
今回、管理職以上の理解促進のためにワークショップでキーとなったのが、タスク型とデモグラフィー型のダイバーシティ。
早稲田大学ビジネススクール准教授・入山章栄氏の著書「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」の中に記載されているこのワードをヒントに、研修を実施。
多様性を活かした組織やチームをつくる上で必要な新たな視点が得られ、非常にわかりやすかったという参加者からの感想が多く挙がりました。
組織への浸透を目指す上で、目的や意義など共通の認識を持つことは必要不可欠。さらにその先の実行に促すため、何ができそうか考えるよいきっかけとなっている実感があります。

後日、推進をする上でヒントを与えてくれた入山教授への報告とともに、入山教授、コニカミノルタ社ダイバーシティ推進室長の岩本氏、本施策のメインコンサルタント・ファシリテーターを務める池照氏との対談が実現しました。

ダイバーシティ推進に携わる皆様へ、コニカミノルタ社の取り組みとともに、対談内容を紹介いたします。

コニカミノルタの取組み

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池照

本日はお時間ありがとうございます。
コニカミノルタ社がダイバーシティを本格的に社内で浸透させていきたいということから、今回のダイバーシティ浸透プロジェクトがスタートしています。
室長である岩本さんから全体像について簡単にお話しいただいて、今回の質問をさせていただければと思っています。よろしくお願いいたします。

我々コニカミノルタは、2014年度にIoT時代に勝ち抜く中期事業戦略『TRANSFORM 2016』、そして本年『SHINKA 2019』を打ち出し、真のグローバルエクセレントカンパニーを目指した 事業変革を進めています。この事業変革の推進には、イノベーションを起こす人財の活躍が不可欠であることは言うまでもありません。

コニカミノルタは、これまで以上に多様な人財ミックス、つまりDiversity and Inclusionの考えを社員の言動・行動に結び付ける活動の第一歩として、女性活躍推進を本格的に進める土台を作り上げるため、2016年度、社長を最高責任者とする「ウィメンズコミッティ」を結成。そして本年度、社長の強い意志のもと、社長直轄組織としてDiversity and Inclusionを目指す「ダイバーシティ推進室」を設立しました。

会社としては、昨年初めて全社にダイバーシティに関する意識調査を実施しました。そこからは、全社員、特に我々を含めた経営・管理職層は、ダイバーシティ経営というものがどれだけ重要なのかを十分捉えきれていない。女性活躍がなぜ必要なのかということも頭では分かっているけれど、行動を起こせるほどの十分な理解が進んでいない。また、女性社員は自己肯定感をなかなか持つことができていないなど、比較的どこの会社でもあるようなかたちではありますが、こういった実態が浮かび上がってきました。

その実態に対し、本年度からダイバーシティ推進室として、女性活躍に加えて、広い意味でのダイバーシティ推進に対する意識・風土の醸成に取り組むほか、出産・育児・介護を含む女性、男性ともに関係するライフイベントに対する支援のあり方や、そこから派生する働き方のあり方を考えるなどの取り組みを行っています。その中で、社員の意識・行動改革に向けたトレーニングについては、池照先生を中心に取り組みを進め始めているところです。

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岩本

デモグラフィー型とタスク型

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池照

今回は、ダイバーシティの理解と導入の意義、そして実際の組織への浸透を目指すなかで、まず言語(定義)の理解を一つの目標にしています。

ダイバーシティって、みんな頭では分かっているんですよ。新聞やテレビを見ても出てこない日はないですし、なんとなく今トレンドですし、うちの会社もダイバーシティが始まったんだなみたいなところはある。
今回、ダイバーシティをより現実感を持って実務的に理解するなかで、入山先生が著書『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』の中で紹介してくださったデモグラフィー型とタスク型のダイバーシティ“を、皆さんにご紹介したのです。
それぞれの型のダイバーシティについて段階を紹介しながら、自分のチームとしての現時点での達成度にパーセンテージを付けるとしたらどれくらいになるかというワークを導入しました。

たとえばデモグラフィー型が100%達成できているというのは、どういうことなのか。
これは私の主観でスケール化しただけなのですが、メンバーの基本的な属性や経験を把握しているというのは、10%くらいでしょう。部門の管理職全体がメンバーそれぞれの多様性を把握して、組織作りやチーム作りにうちの部門を生かせているという段階まで来たら、100%になるのではないか。そのようなスケールがあるとしたらうちの部は何パーセント程度達成かを、組織長の皆さんに自己診断していただく。

もう一つは、タスク型と言ったときに、メンバーの特性や「らしさ」というのは、だいたい把握はしている、この人はこういう「らしさ」がある、この人はこういう強みがあるというのを知っていたら10%。
うちの部では、一人一人が自分の意見やアイデアを発揮できる環境がある、みんな恐れずにいろいろなことをスピークアップできる環境があるんだよと言ったら100%。そうしたときに、みなさんのチームは何パーセントぐらいかと問い、スケールしていただいたのです。

面白いですね。これは、ありがたいですね。僕はこんなこと本で書いていないですけど、良い意味で本で書いたことを池照さんが解釈してくださって。

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入山

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池照

このようにご自身のチームに落として考えていただくことで、「ダイバーシティ=デモグラフィー的な視点」と捉えている方が多いなか、「タスク型ダイバーシティ」としての視点を持つことで、自部門でもまだまだやることがあるということに気付かれる方が多くいます。実際にやっていただいたなかでも、これは非常に分かりやすかったという感想が多くありました。

ダイバーシティは、何のため?

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入山

現場の経験、実際の経験は池照さんのほうがはるかにあるから、僕は具体的に「ここをどうしろ」というのは言えないのですが、いくつか気になっているポイントがあります。

これは僕がよく講演で申し上げているのですが、去年の5月頃に、まさに岩本さんと同じような肩書の、日本の大手企業のダイバーシティ推進室長が毎週のように僕の研究室に来てくれたのです。本当にありがたいことではあるのですが。なぜかというと、ご存じのように去年の4月に女性活躍推進法ができて、いろいろな会社で急にダイバーシティ推進室がトップダウンでできたのです。
その時に、各社のご担当者がいろいろな悩みを話してくださって、ダイバーシティですごく悩んでいるのはよく分かったんだけど、「結局のところ、何のためにあなたの会社はダイバーシティをするのですか?」と質問すると、だいたいの会社が、皆さん口を揃えて、「実は、、、私もよくわからないのです」って答えるのです。
僕は、そこがいちばん「危ない」と思っているのです。当たり前ですけど、何のためにやるのかというのが揃わないと、社内が腹落ちせず納得しないですから。ダイバーシティって、僕の感覚は、手段であって目的ではない。

御社の社長、役員や社員の皆さんはどう思っていますか。

メーカーとして、「モノからコトへ」とビジネスを変えた国際競争のなかにおいては、このままの人員の発想力では勝てないと自覚しています。

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岩本

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入山

そうなんですよ、ポイントはそこなんですよ。国際競争力を付けるということは、当然重要じゃないですか。だけど、国際競争力を付けるために、なんでダイバーシティが必要なのか。

我々の企業理念でもある「新しい価値の創造」の原動力にするために、多様な人財が活躍して、稼ぐ力がある会社になるんだということですね。

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岩本

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入山

それがうまく説明でき、社員が「腹落ち」できると、きっと組織はドライブするはずです。

知と知が組み合わさり、新しい知

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入山

僕の理解は、ダイバーシティは、イノベーションのためなんですね。

なぜかというと、この本で読んでいただいたかもしれませんが、基本的にイノベーションって、知と知の新しい組み合わせなのです。これはイノベーションの父と呼ばれたジョセフ・シュンペーターの時代から言われていることです。イノベーションとは新しい知を生み出すことで、もともとある知と知が新しく組み合わさると、新しい知が出てくるのです。だから今日みたいに、僕と皆さんと初めて会う人で新しい知見を持っている人が集まると、何か新しいことが出てくるかもしれない。

そうであれば、組織に多様な知があったほうがいいわけですね。いろいろな知の組み合わせができるから。そして、知は人それぞれが持つものです。ですから、イノベーションの厳選は、人が多様になることなのです。

今の日本は男性中心の企業が多いので、そうであれば結果的に女性の方が多く入ると、たぶん多様な知見が入る。そうすると結局はそれがイノベーションにつながって会社が変わるというのが、僕のロジックなんですね。

もっと言うと、この本でも書いたのですが、もし多様な知を持っているのなら、会社的には、別にそれは中年の男性でも構わないんですよ。ただ、おそらく、平均すると明らかに女性の方のほうが社会で活躍している数が少ないので、まずはそういう方が入ると、知見が広がる。つまり、いまの日本ではタスク型のダイバーシティを実現するために、でもグラフィー型を高める必要がある、ということです。

アンコンシャス・バイアス

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入山

でも、多くの企業ではこの論理が浸透していない。だから、これも本に書きましたが、中年の男性ばっかりいるところに、女性という理由で、数値目標だけでいきなり入れてしまおうとするわけです。そうすると、人間は認知に限界があるので、どうしても男性・女性って、脳内で分けてしまうのです。人は見た目が9割で、本当に見た目から入ってしまうので。そうすると女性だけ孤立してしまい、組織内組織みたいなのができてしまう。

だから、数値目標で女性を入れるのは本末転倒で、まず「ダイバーシティは何のためにやるのか」ということを、社内で徹底的に明確にすべきなのです。経営学的にはその理由は、イノベーションのために、多様な知見を入れるためですが、日本企業は中年男性が多いから、女性が入ることが多様な知見を増やす手段になりうる、ということです。

ただ、そうするとさっき言ったような、その理由だけで女性が入ると認知に限界があって、どうしても男性グループ・女性グループと分けてしまう。しかも、その心理的傾向は、女性のほうにもあることが分かっています。「私たち女の子グループと、その他おじさんグループ」みたいに心理的に分けてしまうのです。それで男性は男性だけ、女性は女性だけで固まって、組織内組織ができて、結局ダイバーシティが機能しないのです。

Googleなども研修でこういう考え方を「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)という言い方をしていますが、これを徹底的に取り除くことを行っています。そもそもGoogleは男女も国籍もばらばらですけど、障害を持つ方やLGBTの方々もおられ、偏見があることも自覚している。彼らは「バイアス・バスティング」という研修プログラムの中で、偏見を取ることを徹底的にやっているのです。

*日経BP社 ヒューマンキャピタルonline
“池照佳代の人事・人材育成担当者が読んでおきたい本”コーナーでは入山先生の書籍を紹介しています。
『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』
http://www.nikkeibp.co.jp/atclhco/15/410962/060800022/

ダイバーシティ&インクルージョン
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